パケット通信のTCP/IPを理解するには、ルーティングの知識が必須である。本連載では、ルーティングの基礎となるIPアドレスの仕組みを解説した上で、実際のルータを使って、機器の設定画面やパケットキャプチャ画面を見ながらルーティングを解説していく。
IPアドレスの構成とその役割
インターネットなどTCP/IPを利用したネットワークの役割は、大まかにいってしまえばネットワーク上の機器同士で通信を行なうことだ。しかし、ネットワークは複雑に入り組んでいるため、送信先から宛先まで正しくパケットを届ける仕組みが重要である。
現実社会でいえば、郵便物は送り先に書かれた住所にきちんと届くことが求められることと同じだ。しかし、郵便を利用するうえでは自分の手紙がどのようなプロセスを経て届くか意識することはない。そこで、複雑に入り組んだネットワーク上の通信において、パケットがどのようにして運ばれていくのかに注目してみたい。
パケットを郵便物に例えると、宛先の住所や氏名に相当するものが必要になる。それが「IPアドレス」である。アドレス(address:住所、所在地)という言葉が示す通り、IPアドレスはIPパケットを送り届けるための宛先や送信元を表わすものである。そこでまず始めに、ネットワーク上の通信において「誰」から「誰」への通信か識別するために必要なIPアドレスについて解説する。
IP(Internet Protocol)では、IPアドレスでPCやルータなどの通信端末(ホスト)を識別する。現在のネットワークで主流のIPバージョン4(IPv4)では、IPアドレスは32ビット(4バイト)の整数である。基本は32 桁の2 進数で表記するが、人間に理解しやすいように1バイトごとに10 進数で表記し、その間をドットで区切って表記することも多い(図1)。また、8桁の16進数で表記することもある。
図1 IPアドレスの表記法
IPパケットを正しく配送するには、インターネット上のすべての端末(厳密にはインターフェイス)に異なるIPアドレスを割り当てなければならない。そこで、IPアドレスはICANN(InternetCorporation for Assigned Namesand Numbers)を最上位とする階層的な組織によって管理されている。
このICANNの定めたポリシーに基づいて、地域ごとにあるネットワーク管理団体(レジストリ)が、企業などの組織に対してIPアドレスを割り当てる。日本国内のレジストリは JPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)である。このようにして、全世界的にIPアドレスの重複を防いでいる。
IPアドレスが示すこと
「IPアドレスはネットワーク管理団体が割り当てる」といっても、ネットワーク管理団体が大学や企業、官公庁といった組織の端末に対して、1台ずつアドレスを割り当てていくことは、事実上不可能である。そのため、ネットワーク管理団体は各組織に「連続した一群のIPアドレス(アドレスブロック)」を割り当てている。そして、各組織は割り当てられたアドレスブロックの中から、組織内の端末にIPアドレス(ホストアドレス)を割り当てるようになっている。
つまりIPアドレスは、ある端末が属しているネットワークを示す部分と、ネットワーク内でその端末(ホスト)を特定する部分の2つから成っている。このフォーマットは、マンションやアパートなどの集合住宅をイメージするとわかりやすい。
集合住宅の各部屋に郵便を配送するには、建物の所在地を表わす部分(国・行政区域・町名・番地など)と、その建物内の部屋番号を表わす部分を知る必要がある。ここで、建物の所在地に相当するのがネットワーク部、建物内の部屋番号に相当するのがホスト部というわけだ(図2)。
図2 IPアドレスのフォーマットと住所の比較
ここで、ホスト部のビットをすべて“0”としたIPアドレスを「ネットワークアドレス」と呼ぶ。ネットワークアドレスを表記する際には、後ろに“/(スラッシュ)”とネットワーク部の長さ(ビット長)を付加する。たとえば、IPアドレス(ホストアドレス)が 192.168.124.113 の端末があり、ネットワーク部が24ビットであった場合、この端末のネットワークアドレスは 192.168.124.0/24 と書く。同一のネットワークに接続されたホストであれば、ネットワークアドレスは必ず一致する。
IPアドレスの分類
インターネットに接続している組織の規模はさまざまで、それぞれ保有する端末の数は異なる。すなわち、組織の規模により必要なIPアドレスの数が異なる。ところが、IPアドレスの長さは32ビットに固定されている。このため、ネットワーク部とホスト部の長さ(ビット数)の組み合わせを変えることで、組織内で使用できるホストアドレスの数を3つのクラスに分けている(表1、図3)。
クラス | アドレスの範囲 | ネットワーク部 | ホスト部 | ネットワーク内部の接続可能端末数 | インターネット全体での割り当て組織数 |
---|---|---|---|---|---|
クラスA | 0.0.0.0~127.255.255.255 | 8ビット | 24ビット | 1677万7214台 | 128組織 |
クラスB | 128.0.0.0~191.255.255.255 | 16ビット | 16ビット | 6万5534台 | 1万6384組織 |
クラスC | 192.0.0.0~223.255.255.255 | 24ビット | 8ビット | 254台 | 2097万1524組織 |
図3 アドレスのクラス
それぞれのクラスは、IPアドレスの上位4ビットの値で決まっている。クラスAはIPアドレスの最上位の1ビットが“0”、クラスBは最上位の2ビットが“10”、クラスCは最上位の3ビットが“110”となっている。
このほか、IPアドレスの最上位の4ビットが“1110”のクラスD(224.0.0.0~239.255.255.255)、“1111”のクラスE(240.0.0.0~255.255.255.255)という特別なアドレスクラスがある。クラスDは、複数の端末に対して同時にパケットを送るマルチキャスト用である。これは、おもにマルチメディアアプリケーションなどの配信に使われている。また、クラスEは実験用として使うことが決まっているので、クラスDとクラスEのIPアドレスを一般の端末に割り当てることはできない。
ただし、クラスによるネットワーク部とホスト部の分割は、現在では使われていない(クラスDとEを除く)。クラスを使わない分割については、次回紹介しよう。
家庭で自由に使えるプライベートアドレス
IPアドレスには、「グローバルアドレス(グローバルIPアドレス)」と「プライベートアドレス(プライベートIPアドレス)」という区分もある。前回紹介しようにICANNなどのネットワーク管理団体から正式に配布された世界中で重複しない固有のアドレスがグローバルアドレスだ。インターネットに直接接続する端末には、このグローバルアドレスを与えなければならない。逆にいえばインターネットへ接続していなければ、グローバルアドレスを使用する必要はない。この、ネットワーク管理団体への申請や登録の必要がなく、組織内で自由に使用可能なのがプライベートアドレスだ(表1)。。
クラス | 範囲 |
---|---|
クラスA | 10.0.0.0~10.255.255.255 |
クラスB | 172.16.0.0~172.31.255.255 |
クラスC | 192.168.0.0~192.168.255.255 |
グローバルアドレスを大量に保有している一部の教育機関や企業などを除き、組織内のネットワークにはプライベートアドレスを利用するのが一般的だ。また、家庭内で広く使われているブロードバンドルーターが端末に割り当てるIPアドレスは「192.168.X.X」が多いが、これもプライベートアドレスである。
クラス | 範囲 |
---|---|
クラスA | 10.0.0.0~10.255.255.255 |
クラスB | 172.16.0.0~172.31.255.255 |
クラスC | 192.168.0.0~192.168.255.255 |
なお、インターネット上では、プライベートアドレスを宛先や送信元とするパケットは、配送されずに破棄される。そのため、インターネット経由でしか接続していない別の組織や家庭が、同じプライベートアドレスを利用していても、何ら問題はない。
本記事は、ネットワークマガジン2008年11月号の特集1「試してわかるルーティング」を再編集したものです。内容は原則として掲載当時のものであり、現在とは異なる場合もあります。 |