◯中国メーカー製が多い北朝鮮の携帯電話北朝鮮において正規に流通する携帯電話はすべてkoryolinkが販売している。そのほとんどが中国製の携帯電話で、メーカー名が隠されたものからメーカー名が堂々と記載されたものまで流通しており、機種数および流通量ともにZTE(中興)製の携帯電話が圧倒的に多く、次いでHuawei Technologies(華為技術)製が多い。また、機種数は少ないがTCL製やUniscope Communication(優思通信)製の携帯電話も流通している。
北朝鮮で正規に流通する携帯電話はメーカーが直接CHEO Technologyに納入するのではなく、最初にKorea Posts and Telecommunications Corporation(以下、KPTC)に納入してから、koryolinkを通じて販売される仕組みとなる。このKPTCはすでにこれまでにも紹介してきたように北朝鮮逓信省傘下の国営企業で、実質的に北朝鮮逓信省と同体と見なされている。北朝鮮向けには機能の一部を削るようなローカライズも行われており、市場に流通させても問題ないかKPTCが確認するために、まずはKPTCに納入する仕組みを採用したと考えられる。
◯ブランド名が与えられた北朝鮮の携帯電話これまでにkoryolinkは30機種を超える携帯電話を販売してきたが、ブランド名が与えられた携帯電話も多い。一般的に携帯電話のブランド名はアルファベットで本体のどこかに入れられる場合が多いが、北朝鮮の携帯電話は朝鮮語でブランド名が入れられている。
具体的なブランド名としては「Pyongyang(평양)」や「Ryugyong(류경)」、「Arirang(아리랑)」が存在する。現在はPyongyangブランドの携帯電話がほとんどで、フィーチャーフォンはもちろんのこと、スマートフォンまで登場している。北朝鮮ではストレート式のフィーチャーフォンが最も多く、次いで折り畳み式のフィーチャーフォンが多いが、そのほとんどはPyongyangブランドとなる。
デジタル機器に関心が強い若年層などの間ではスマートフォンと間違えらえることも多いフルタッチパネル式のフィーチャーフォンや低価格なスマートフォンも登場しており、これらもPyongyangブランドが与えられている。
また、Ryugyongブランドにはストレート式またはフルタッチパネル式のフィーチャーフォンが少し存在する程度で、Arirangブランドは最上位のスマートフォンに与えられている。
ZTE製のPyongyang F107。朝鮮語でブランド名が入る。Pyongyang F107の背面にはメーカー名のZTEのロゴが入る。◯カラーバリエーションやケースも豊富にこれまで北朝鮮では黒色の携帯電話が多かったが、近年は鮮やかな黄緑色などポップな色の携帯電話まで登場している。ZTE製の折り畳み式フィーチャーフォンでポップな色が用意されており、平壌市ではそれを使用するユーザも見かけた。
また、携帯電話にケースを装着するユーザも増えており、日本でも見かける耳が付いたケースを装着して使用するユーザもいた。携帯電話だけではなく、ケースの多様化も進んでいることが見て取れた。
◯Arirangスマートフォンは高嶺の花筆者が購入したArirang AS1201は国営メディアの朝鮮中央通信が報じたことで北朝鮮国内でも有名であるが、多くの北朝鮮国民にとってはまだ手の届かない存在という。Arirang AS1201を使っているとレストランでは店員が関心を持ち、帰りの高麗航空機内では近くに座った北朝鮮の学生らが触らせてほしいと頼んでくる場面に遭遇した。実機を触ることはおろか見ることすら初めてで、高価すぎて手を出せないと話してくれた。購入時に付き添いの指導員が驚きの表情を見せたことからも、Arirang AS1201はまだまだ「高嶺の花」であることが伺えた。
北朝鮮国民の間ではスマートフォンやフルタッチパネル対応フィーチャーフォンは魅力的であるが、価格が高めに設定されており、経済的な理由で旧型のストレート式や折り畳み式のフィーチャーフォンで我慢するユーザも多いのが現状である。
Arirang AS1201の起動画面には朝鮮語でブランド名が表示される。北朝鮮ではArirangブランドのテレビも存在しており、それの起動画面はArirang AS1201とまったく同じである。◯北朝鮮国民の携帯電話の用途北朝鮮国民は一部の立場を除いて基本的に携帯電話でインターネットを使えないが、そんな中でもスマートフォンなどが登場している。北朝鮮国民はそれらをどのような用途で使うのかも確認でき、音声通話がメインであることは言うまでもないが、カメラ機能やゲーム・学習といった用途も浸透しつつある。特にカメラ機能は北朝鮮では専用のカメラを持たず携帯電話のカメラが唯一のカメラとなるケースも少なくない。指導員の携帯電話を見せてもらうと子供の写真などが大量に保存されており、カメラ機能を頻繁に使うと教えてくれた。
また、Arirang AS1201には北朝鮮で制作されたゲームアプリなど多数のゲーム系のアプリがプリインストールされており、指導員はArirang AS1201でゲームをさせて欲しいと頼んでくるほど、携帯電話でゲームを楽しむという使い方が北朝鮮でも受け入れられていることが見て取れた。一方で、辞書などの勉強に役立つアプリも多く、中には簡単な日本語や中国語を学べるアプリも含まれていた。
◯今後の北朝鮮における移動体通信事情外国人による携帯電話の持ち込みを解禁し、外国人向けにプリペイドSIMカードを販売、Arirangブランドのスマートフォンを国営メディアが報道するなど、2013年は北朝鮮の移動体通信業界が大きな変化を見せた。日本では報じられることが少ないが、朝鮮中央テレビは携帯電話のラインナップを増やす方針などを報道し、移動体通信の発展に注力する姿勢を示している。
ただ、北朝鮮の移動体通信の発展には地方での普及率増加なども不可欠である。平壌市と開城市では見渡しただけでも携帯電話を使う市民の数は歴然としており、平壌市以外の地方では携帯電話の普及率の低さ、つまりは平壌市と地方の経済格差も浮き彫りとなった。地方の発展は移動体通信のみならず、北朝鮮の発展の鍵にもなるだろう。
移動体通信は北朝鮮に限らず変化が激しい世界であるが、今後も北朝鮮の移動体通信業界を注視したいところである。
記事執筆:田村和輝■関連リンク・エスマックス(S-MAX)・エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter・S-MAX - Facebookページ・blog of mobile