携帯キャリア以外の事業者が周波数の割当を受けてインフラを構築し、携帯キャリアに貸し出す─。携帯電話業界の“常識”を覆す新たなスキームが、注目を集めている。きっかけとなったのが、今年1月に開催された総務省「デジタル変革時代の電波政策懇談会(第3回)」だ。事業者ヒアリングに登壇した独立系タワー事業者JTOWERの田中敦史社長は「Beyond 5Gで迅速なエリア整備を進めるには、無線インフラを構築するプレイヤーを増やす免許制度が必要になる」として、「携帯キャリア向けネットワーク提供免許制度」の検討を提案した。長年、携帯キャリアにとって自前設備によるネットワーク整備は競争力の源泉の1つであり、各社はエリア展開で激しく競い合ってきた。それが5Gになって転機が訪れていることが提案の背景にはある。5Gでは、直進性が高く電波が飛びにくい3.7/4.5GHz帯および28GHz帯が用いられており、4Gと比べてより多くの基地局を密に設置する必要がある。しかし、通信収入自体の伸びは今後あまり望めないため、できるだけコストを削減しながら5Gのエリアを整備しなければならない。そこで携帯キャリアの設備を共用設備にまとめることで、より少ないコストで効率的に運用できるインフラシェアリングの活用がすでに進んでいる。4Gまでのインフラシェアリングは、「公益事業者の電柱・管路等使用に関するガイドライン」に基づく携帯キャリア間の設備共用、もしくはトンネルや地下街、地下鉄などの電波不感地帯にJMCIA(公益社団法人移動通信基盤整備協会)が共用設備を構築するのが中心だったが、JTOWERが屋内向けインフラシェアリングソリューションの提供を開始して以降、この3年間で大幅に導入件数を伸ばしているという(図表1)。さらに5Gでは、人が多く集まる商業施設や交通機関などに共用設備を設置するケースが増えることが見込まれている。
図表1 インフラシェアリングの導入実績
Beyond 5Gでは、300GHzまでのさらに高い周波数が使われる可能性が高い。低い周波数帯はひっ迫しており、割り当てられるとしても限られた帯域だ。「従来のエコシステムが効果的に機能するには若干課題がある。新たな制度で無線ネットワークに設備投資を行う事業者を増やし、ネットワークの整備促進につなげたらいいのではないか」。JTOWER 執行役員 渉外・L5G部 部長の大橋功氏は、携帯キャリア向けネットワーク提供免許制度を提案した背景をこう説明する(図表2)図表2 携帯キャリア向けネットワーク提供免許制度の検討(画像クリックで拡大)