現在のスマートフォンは、ほとんどがバッテリー内蔵で、交換することができない。先日、「交換できないのは問題だ」とする記事がSNSでバズっていた。メーカーがスマホを買い替えさせるために交換できないようにしているのだ……という論調である。
うーん。
携帯電話やスマートフォンをずっと取材し、製造についても知っている立場からすると、それはかなり強引すぎる話かな、と思う。
バッテリー交換式でなくなっていったのにはそれなりの理由がある。一方で、製品とバッテリー交換に課題がないわけでもない。
それらがどういう関係にあるのか、改めてまとめてみたい。
この記事について
この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年7月5日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もスタート。
バッテリー技術の進化が「内蔵式」を生み出した
その昔、デジタル機器の多くは充電池を採用しつつも「バッテリー交換」ができた。それが、スマートフォンからPCまで、バッテリー交換できない形に変わってからもう10年以上が経過している。
なぜ交換できなくなったのか? そこには複数の理由がある。
もっとも大きいのは、「バッテリーの形が変わったこと」にある。
現在のデジタル機器で使われているのは「リチウムポリマー」と呼ばれる技術だ。1990年代に実用化された「リチウムイオン充電池」と基本原理は同じなのだが、電解質にポリマーを使っているのが違いだ。いわゆるリチウムイオン充電池では電解質が液体で、リチウムポリマーでは準個体、という違いがある。
今回の話題に関して重要なのは、結果として電池のパッケージが、レトルト食品のような「樹脂のフィルム」に変わったという点だ。要は、われわれが思い描く「電池」の形ではなくなってしまったわけだ。
これによって、電池の特性は大きく変わった。
一番大きいのは、「機器の内部デザインに合わせてぎりぎりまで容量を大きくする」ことが可能になった、という点だ。現在のデジタル機器では、形が決まった規格品もあるものの、ほとんどの機器で、内部設計に合わせた形と大きさのバッテリーパックが使われている。
次の写真は、Apple製品の即時分解記事などで知られる米iFixitが公開しているiPhone 12のバッテリー交換法紹介からの引用だが、バッテリーが本体サイズの大半を占め、さらにその周囲には空間もほとんどないことが分かるだろう。
iFixitが公開している「iPhone 12のバッテリー交換法」から、iPhoneの中身が分かる写真を引用。空いたスペースなどほとんどなく、巨大なバッテリーで占められているのが分かる結果として、現在の機器は、性能向上と動作時間の維持、そして「小型化・薄型化」を実現した。本体内部を密閉し、防水・防塵(じん)を実現するにも都合がいい。
バッテリー交換式は設計に制約が多い1|2|3|4次のページへ続きを読むには、コメントの利用規約に同意し「アイティメディアID」および「ITmedia NEWS アンカーデスクマガジン」の登録が必要です