『超速でわかる! 宇宙ビジネス』(片山俊大 著、すばる舎)の著者によれば、 宇宙は現在、「サイエンス」だけではなく「ビジネス」のフィールドとしてとらえられつつあるのだそうです。
たとえば大量の人工衛星を宇宙に配置したり、国際宇宙ステーションで映画撮影や動画配信をしたり、色々なスタイルの宇宙旅行が選べたりするなど、世界的に“新しい宇宙の使い方”が次々と開発されているというのです。
だからこそ、著者はこう伝えたいのだとか。
つまり、宇宙に興味があろうとなかろうと、もうすでに宇宙なしでは成り立たない時代が訪れているということ。「インターネットなしでは成り立たない」時代がやってきたのと同じように、今後の世の中の流れを把握するためには、“宇宙ビジネス”について知っておくことは欠かせないというわけです。
そこで、宇宙ビジネスの基本を押さえておくため、ぜひとも参考にしたいのが本書。
誰にでもわかりやすく宇宙産業の全体把握ができるようにつくられているという著者のことばどおり、難しそうに思えるテーマすら難しく感じさせないところが最大の魅力です。
きょうは第3章「宇宙ビジネスで、何が実現するの?」のなかから、いくつかのトピックスを抜き出してみたいと思います。
「宇宙インターネット」とは?
膨大な数の通信衛星を張り巡らせることで、地球を宇宙からブロードバンド・インターネット網で覆うサービスのことを「衛星インターネット」(宇宙インターネット)と呼ぶそう。これを利用すれば、僻地や新興国などのようにインフラ設備が整っていない場所であっても、もれなくブロードバンド・インターネットサービスが利用できるようになるわけです。
通常のインターネット網の場合、地上のありとあらゆるところに電波塔を建て、地上や海底などにケーブルを敷く必要があります。しかし衛星経由なら、それらがない地域でも大丈夫。また現在ネットが使用できる環境においても、緊急バックアップとして期待できるのです。
今後、通信速度の高いインターネットが誰にでも使えるようになれば、人々の生活の質が大きく向上するはず。そればかりか、さまざまなビジネスが生まれる環境も整うことになります。
ジャングルの奥地でビットコイン取引をするとか、グーグルマップを利用してエベレスト上で下山ルートをチェックするとか、漂流時のサバイバル術をウェブ検索するなど、個人にとっても企業にとっても利便性が高まっていくであろうことは間違いないわけです。(66ページより)
「宇宙ビッグデータ」とは?
近年では技術の進歩のおかげで、地球を常時モニタリングすることが可能になってきました。高頻度で上空から写真を撮ったり、雲があっても夜であってもレーダーで感知したりできるわけです。したがって、それらのデータと地上のデータを組み合わせてAIで解析すれば、いままで見えてこなかったことがいろいろわかってくるはず。
たとえば、これまで地上からでは把握しづらかった、さまざまなデータを得ることにより、分析の速度や頻度が飛躍的に向上することでしょう。その結果、いままでになかった新しいビジネスが生まれることも考えられます。
現在は、ありとあらゆるビッグデータを活用する時代になっています。ここに「宇宙ビッグデータ」が加われば、多くの知見が得られることは間違いなし。可能性はさらに広がるわけです。
農作物の発育具合をマクロで検知すれば、先物取引などの金融取引や広告出稿などに活かすことができるかもしれません。石油備蓄タンクや貨物タンカーをモニタリングすることで、世界的な受給バランスを推測できるでしょう。
交通量や駐車場などをモニターできれば、エリアや時間帯ごとの需要予測を行い、不動産開発に活かすことも可能。海洋のプランクトン分布など、宇宙から海の環境分析をすることで、水産養殖の餌付け・管理を最適化することも可能になるかもしれません。このように、宇宙ビッグデータを活用すれば多くのことが可能になっていくのです。(68ページより)
「宇宙工場」とは?
現在、無重力環境での実験や開発は、国際宇宙ステーション(ISS)で行われています。
宇宙飛行士に、医学や科学の知識を持った人が多いのもそのため。しかし、今後のISSの運用方針が未定であるため、独自に人工衛星を打ち上げ、そのなかで無人で実験・開発するサービスも続々と生まれているのだといいます。
たとえばそのひとつとして紹介されているのが、無重力での新薬開発。
新薬開発では、病気に対応したさまざまなタンパク質結晶をつくって実験する必要があります。ただし地球では、重力が邪魔して品質のよいタンパク質結晶をつくることが難しいこともあるもの。でも無重力環境でなら、それが可能になるのです。つまりはそんな理由から、宇宙での新薬の実験に大きな期待がかけられているわけです。
同じように、もともと宇宙にある無重力環境を活用すれば、従来は不可能だとされてきた多くの実験や開発、製造までを行える可能性が出てくることになります。フロンティア領域だからこそ得られる、叡智やビジネスを追求することができるのです。(70ページより)
「宇宙輸送ビジネス」とは?
宇宙輸送ビジネスの主役といえば、当然のことながらロケット。今後、宇宙旅行の一般化や宇宙ビジネスの多様化に伴って、人やものを運ぶニーズはどんどんふくらんでいくそうです。機体の製作から運用まで、さまざまな製品やサービスが期待されているわけ。
人工衛星や宇宙旅行など、宇宙産業の需要は急速に拡大中。しかし、それらを宇宙に運ぶ手段であるロケットの供給は、その需要に追いつかない状況。そのため宇宙への輸送手段であるロケットの供給が、これからの宇宙産業発展のカギとなってくるのです。(76ページより)
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著者は、2015年ごろに仕事で「資源エネルギー産業と宇宙産業と結びつけるプロジェクト」に携わることになり、その後さまざまな縁で、宇宙産業に深く関わるようになったのだそうです。
つまり、“たまたま”宇宙に関わるようになったという異例の経歴の持ち主だということ。本書が親しみやすいつくりになっているのは、そんな経歴のおかげなのかもしれません。だからこそ楽しみながら、多くの知見を得たいものです。
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Source: すばる舎