PLAYISMから2022年1月13日にパッケージ・ダウンロード併売でリリースされるNintendo Switch、プレイステーション4用ソフト『ASTRONEER -アストロニーア-』(開発はSystem Era Softworks)。同作のレビューを、ライターのヨージロがお届けする。
広告なお、『ASTRONEER -アストロニーア-』は2016年に早期アクセス販売を開始し、その後継続的にアップデートを重ねてきたタイトルだが、本記事ではあくまで“新作ソフト”として同作を扱った。そのため、過去バージョンとの違いなどについて、本記事では言及していない。また今回のレビューではNintendo Switch版を使用した。
『ASTRONEER -アストロニーア-』(Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp)『ASTRONEER -アストロニーア-』(PS4)の購入はこちら (Amazon.co.jp)ファミ通.com PLAYISM特設サイト年末年始、時間泥棒にごっそりとやられちゃいました
“時間泥棒”と呼ばれるタイプのゲームがある。時が経つのも忘れてのめり込んでしまうゲームのことだ。一般的にこの表現は好意的にゲームを紹介する際に使うものだが、僕はそんな時間泥棒タイプのゲームには極力手を出さないようにしている。
時間泥棒に対する僕の防犯意識は低い。泥棒に入られたら最後、可処分時間がスッカラカンになるまでやられてしまうのだ。しかも時間泥棒タイプのゲームは、遊ぼうと思えばいつまでも遊べてしまうものが少なくないため、本当にソレ以外のことをやらなくなってしまう危険性もある。まあ、それはそれで悪いことではないかもしれないが、生きていればゲーム以外にもやることってのはそれなりにあるのだ。
しかし2021〜2022の年末年始、時間泥棒に入られてしまった。レビュー執筆を依頼された『ASTRONEER -アストロニーア-』である。
レビュー用のサンプルROMが手元に届いたのは年の瀬。仕事納め、大掃除、実家への挨拶、そのほかもろもろの年末年始行事……と、公私ともにやることが目一杯の時期だ。
が、ほとんどの予定がふいになった。とりあえず寝るときと食事のとき以外の時間はほぼすべて『ASTRONEER -アストロニーア-』に費やしたと思う。時間泥棒に入られた僕は、年末年始まで盗まれてしまったのである。
そして驚いたことに、それだけ遊んだにも関わらず、僕はまだ本作をまったく遊び足りないと感じているし、本作が用意している要素の半分くらいしか体験できていないと感じているのだ(たいへん申し訳ないのだが、この記事執筆時点で僕はエンディングを見ていない)。
シームレスな展開がやめどきを失わせる
『ASTRONEER -アストロニーア-』は未知の惑星を探索してさまざまな資源を集めて、それらを使って設備をつくり惑星環境を充実(テラフォーミング)させていく、オープンワールドのサンドボックスゲームだ。
こういったジャンルの作品では、いかに“勉強させられている感”を抱かせないかが、ゲームにのめり込めるかどうかの分かれ目のひとつになると思う。その点について『ASTRONEER -アストロニーア-』はかなりうまくやっている印象だ。
ゲームを起動すると、開発会社のロゴなどが表示されたあと、すぐにスタート画面が表示される。
画面向かって右側には宇宙ステーションが浮かんでおり、左側にはゲームモードの選択(本作には“アドベンチャーモード”と“クリエイティブモード”のふたつがある)や各種設定を行うメニュー欄。モードを選択してゲームを開始すると、宇宙ステーションからポッドが発射され、地球によく似た惑星“シルヴァ”に着陸する。
画面の指示に従ってボタンを押すと、ポッドからは“ザ・宇宙飛行士”といったルックスのキャラクターが登場。これがプレイヤーの分身となる主人公だ。
ちなみに、ここまで画面の切り替えは一切なく、これ以降もすべてがシームレスに展開していく。これも『ASTRONEER -アストロニーア-』が時間泥棒たり得る要因のひとつだろう。
本作では一度ゲームをスタートしたら、それ以降は自分でゲームを終了するか、何かしらの理由でプレイヤーが死亡しない限り、一切の画面切り替えなしでシームレス&リアルタイムに展開し続ける。よくも悪くもプレイに区切りがないため、やめどきを失ってしまうというわけだ。
やまないミッション通知に「はっ、もうこんな時間!?」
話をゲームの導入部分に戻そう。
着陸したポッドの一部はシェルターにトランスフォームし、一部はロケットの発着場にトランスフォームする。そして画面右下には“第一歩!”なるミッションが達成されたことを告げるメッセージが出現。同時に“基礎の構築”、“彼方の光”という新規ミッションの進行が告知される。
が、それ以外はとくに説明らしい説明がないため、プレイヤーからすればハッキリ言って“なんのこっちゃ”な状態だ。とりあえず発着場のほうにフラフラと歩いていくと、ミッションの詳細を確認できるモニター(ミッションログです)があるので、それをチェックすると、さきほどアナウンスされたミッション“基礎の構築”は……
で達成できることがわかる。つまり……“なんのこっちゃ Part2”だ。
しかし、改めてミッションログを見ると、ミッション“第一歩!”の達成報酬がもらえることが判明。そして報酬を受け取るを選ぶと、発着場に酸素供給器とプリンターが降ってくる。
なるほどなるほど……てな具合に“基礎の構築”を達成すると、つぎは“深宇宙で深呼吸”というミッションがスタート。詳細を確認すると「テザーを置いて、酸素供給器からの酸素ラインを伸ばそう」とある。
そう、お気づきのとおり“なんのこっちゃ Part3”である。
が、賢明なプレイヤーは“基礎の構築”の達成報酬で変な棒の塊みたいなのが降ってきたことに気づいているだろうし、それがテザーであることも、これまでの流れから予測できているはず。つまり、このミッションはたやすく達成できる。カンのいいプレイヤーであればここで、“テザー”っていう棒みたいなやつが酸素を運んでくれて、その有効範囲から離れると酸素が減っていく……というルールも自然と理解することになるだろう。
その後もミッション表示は止まらない。続いての“資源調達”は比較的わかりやす(中略)……はっ、もうこんな時間!? みたいな感覚にさせられる鮮やかな導入だ。
“なんのこっちゃ”→“そういうこっちゃ”をくり返して自然にルールを学ぶのが心地いい
『ASTRONEER -アストロニーア-』はゲームの遊びかたについて多くを語らない。その代わりに、プレイヤーをたくさん動かして、体験で理解させる。
テザーは酸素がない惑星で活動するための命綱で、資源を収集するときに使う掃除機みたいなツールは地面を掘ったり持ち上げたり平坦にしたりすることもできて、惑星探索に必要な設備は収集した資源をプリンターに突っ込めば作成できる……といった本作における基礎中の基礎の習得は、前述のとおりスタート画面から途切れることのないシームレスなアクションの中にすべて取り込まれている。
ルールやシステム理解のために、七面倒臭いテキスト説明を読み込む必要がないつくりはすごくスマートだし、勉強させられている感の回避としても有効な印象だ。
ミッション内容もこれまた前述のとおり絶妙に情報が足りないので、プレイヤーは必然的に“なんのこっちゃ”を抱えることになる。
だが、“なんのこっちゃ”に対するゲームからの“そういうこっちゃ”という回答は意外とすんなり見つかるから、なにをすればいいかわからず立ち止まることもまずないだろう。そして“なんのこっちゃ”と“そういうこっちゃ”の心地よい応酬をくり返しているうちに、自然とプレイヤーは立派な惑星開拓者になっている、というわけだ。
プラスチックひとつのために宇宙へ飛び出し……そして年が明ける
ここまでの説明を読んで『ASTRONEER -アストロニーア-』がミッションに縛られた窮屈なゲームと思ったいる人もいるかもしれない。
確かにサバイバルモードでは矢継ぎ早にミッションが発せられる。それをすべて達成しようとすれば、いかに導入がスマートとは言え、たちまち本作はやらされている感に乗っ取られてしまうだろう。
ただ幸いなことに、ミッションを無視したところでゲームの進行が滞ることはないし、惑星開拓の基礎を習得した時点で、プレイヤーにはミッションなんかよりも率先して取り組みたいとことが生まれているはずだ。
僕の場合は、“乗り物”の作成がなによりも重要なマイミッションだった。
『ASTRONEER -アストロニーア-』の世界は徒歩で探索するには広すぎるし、地表に口を開けた洞窟から入ることができる(あるいは自分で掘り進めてもいい)地下空間は地表よりも遥かに広大かつ危険だ。さらにゾッとすることに、探索できる惑星はシルヴァを含めて全部で7個もあるのだ!
ゲーム序盤のミッションおよび達成報酬で、トレーラーやバギーといった乗り物は比較的に簡単に手に入る。が、こんなものは言ってしまえば補助輪がついた自転車のようなもの(実際にはメチャクチャ役に立つけど)。
地表を地下を、遠く離れた別の惑星を探索するためには、より積載量が多くて拡張性もある“ローバー”があったほうがいいし、惑星間の移動には当然ロケットが必要なのである。
じゃあ、乗り物をつくるためにガムシャラに資源集めをすればいいのかと言えば、話はそんな単純じゃない。
ローバーやロケットのような貴重な乗り物を作成するためには、レアな資源が必要になる。ここでいうレアは見つかりにいくというよりは、手間がかかるものと考えてもらったほうがいいだろう。
たとえば、“中型ローバー”をつくろうとした場合、必要な資源は“プラスチック”が2個、“ゴム”が1個の合計3個となる。「たったそれだけ?」と思うかもしれないが、プラスチックとゴムは自然界にないので、原材料を集めなければいけない。
プラスチックの原材料となる資源は“コンパウンド”と“炭素”。前者は惑星のいたるところに存在する天然資源なのですぐ手に入る。一方、後者の炭素は“オーガニック”(天然資源)を“溶鉱炉”で錬成しなければいけない。と、なるとまずは溶鉱炉をつくる必要がある。
幸いなことに溶鉱炉の作成に必要な資源はすべて、簡単に手に入る天然資源なので、チャチャッとつくれるだろう。そんなこんなでコンパウンドと炭素が揃って、ようやくプラスチックが完成……とはいかない。
コンパウンドと炭素を合成してプラスチックにするためには“化学実験装置”が必要だ。化学実験装置の作成には、“セラミック”、“ガラス”、“タングステン”を揃えなければいけない。詳細は省くがセラミックとガラスを用意するのはそれほど難しくはない。問題はタングステンだ。
タングステンは“鉄マンガン重石”という天然資源を溶鉱炉で精製すると手に入るのだが、なんと鉄マンガン重石は、最初の惑星シルヴァには存在しない。ってことは、プラスチックひとつのためにまず、小型ロケットをつくって別の惑星へ向かわ(中略)……えっ!もう年明けちゃいました!? みたいな。
『ASTRONEER -アストロニーア-』は粘土ゲーであり積み木ゲーでもある
以上、『ASTRONEER -アストロニーア-』があなたの貴重な時間を泥棒する、悪質な手口をご紹介した。だが、このゲームにはさらに厄介な要素がある。クリエイティブモードがあることからわかるとおり、クラフトするよろこびだ。
クラフトのよろこびは『マインクラフト』というサンドボックス界の巨人のおかげで、すでに多くの人が理解していることと思う。だが、『ASTRONEER -アストロニーア-』のプレイフィールは『マインクラフト』とはだいぶ違う。
たとえば、地面を変化させられる“地形変形ツール”は、掘る・盛る・(平らに)慣らすという3タイプのアクションが可能だが、正直言って建物のような立体物をつくることには適していない。だから『マインクラフト』のように1ブロックずつ建築してくような楽しさを求めていると、肩透かしを食らってしまうかもしれない。
一方で、谷に橋をかけたり、デコボコの大地を平らに慣らしたり、ドカンと山をひとつつくることはお手の物。惑星という巨大な粘土をちぎって、丸めて、つぶすような感覚で地形をダイナミックに変化させていく豪快さは、本作ならではの醍醐味と言っていいだろう。
もうひとつ、本作らしいプレイフィールのひとつが積み木遊びのような感覚で行えるモジュール設置だ。
溶鉱炉などのモジュール(設備類)は、どれもサイズや役割がカッチリと決まっていて、使いかたに悩むことはないが、逆に言えば応用できることもとくにない。ただそれはあくまで、モジュール自体の話。
たとえば、オーガニック資源は一部を除いて錬成して使うことがほとんどなので、保管場所と溶鉱炉は近いほうがいいし、その隣には化学実験装置があるとなお効率がいい……といった具合に効率的に動ける配置を考えているだけでも、あっという間に時間が経ってしまう。
逆に、何も考えずに設置しまくって編集者の机みたいに雑然とさせてみるのもプレイヤーの自由だ。
モジュールは巨大なものも少なくないが、どんなサイズでも持ち運びはワンボタンで可能。基地をテキパキと組み立てたり、調整していたりすると、あっという間に時間が過ぎてしまうので要注意だ。
『ASTRONEER -アストロニーア-』を遊ぶことは心地いい
長々と『ASTRONEER -アストロニーア-』に時間を奪われてしまう理由を述べてきたが、じつはここまで本作に対して“おもしろい”、“楽しい”という表現を使うのは慎重に避けてきた。
年末年始をゴソっと泥棒されたくらいなのだから、つまらないわけではない。一方で“おもしろい”や“楽しい”といった感情が跳ねるような言葉が、本作の魅力を表現するえで適切な言葉だとは思えなかったのである。
少し話を脱線させるが、僕は音楽ジャンルの中でテクノが好きで、そのテクノの中でもミニマルテクノと呼ばれるものが好きだ。ミニマルテクノとは、音の数とメロディー展開は最小限(ミニマル)だが、ふと気がつくと聴き始めたときはだいぶ違う音に包まれている、というもの。
同じエレクトロニックミュージックでもEDMなんかはめちゃくちゃにド派手で盛り上がりまくって、まさに“おもしろい”&“楽しい”音楽なのだが、ミニマルテクノはその正反対。派手さには欠けるしリズムも単調で、聴き慣れないうちは退屈だったりするのだが……僕はEDMよりも圧倒的にこっちが好きだし、聴いていて心地よいのだ。
『ASTRONEER -アストロニーア-』の魅力は、このミニマルテクノの心地よさに通じるものがあると僕は考えている。
かろうじてBGMとしての形を成しているサウンド、控えめだがやたらと耳障りのいい各種SE(効果音)、パステルカラーの簡略化されたグラフィック、すべてがシームレスにつながったゲームプレイ。『ASTRONEER -アストロニーア-』を構成する要素はどれもミニマルで派手さはないが、ゆえにストレスも少なく快適で、ずっと心地よく遊んでいられる。
かと思えば、プラスチック素材をつくるためだけに、別の惑星を目指してしまうようなスケールの大きさもあって、気がつくとぜんぜん違う景色を見ているところもミニマルテクノを聴くよろこびに似ていると、個人的には思う。
新たな惑星に到着するたびに、生存・拡大のための設備をイチからつくりなおすというリピート感も、同じリズムをくりかえすミニマルテクノの快楽に通じるものがあるのではないか、と個人的には好意的に理解している(ここは、人によっては「またかよ」とうんざりするかもしれないポイントではある)。
サンドボックスゲームは、プレイヤーの遊びのセンスが試される面もあるが、ミニマルな本作ではそんなに気を張らなくても大丈夫だ。目の前のやりたいこと、なんとなく心地よいと思うことをコツコツとやっていれば、いつの間にか景色はだいぶ変わっているし……日付も変わっているかもしれない。
執筆者紹介:ヨージロ元ファミ通編集部ニュース班で現在はサラリーマンの兼業ライター。録り貯めた年末年始の特番は、1年間かけて消化していく予定です。