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楽天など新興通信業者、切り札は安価なクラウド - WSJ

学生の学期末レポートから企業の人事情報に至るまで、近頃はありとあらゆるものがクラウド上に存在する。データをまとめて保管・処理する巨大なサーバー群であるクラウドは、アマゾン・ドット・コムのような企業が運営している。

モバイル通信ネットワークも次第にクラウド依存を強めている。

米衛星放送大手ディッシュ・ネットワークや日本の楽天グループのような移動体通信事業の新規参入組が構築する無線ネットワークには、特にそれが当てはまる。競合する既存大手企業よりもコスト面で優位に立つ必要があるためだ。

スマートデバイスで動画をダウンロードしたり、友人にメッセージを送ったり、今まで通りに電話をかけたりする場合、人々はその背後でデータを処理する機械にまで思いをはせることはない。だが、フィンランドのノキアやスウェーデンのエリクソン、中国の華為技術(ファーウェイ)などが製造するカスタマイズされたネットワーク機器の設置や管理にはコストがかかる。だからこそ、携帯電話の無制限データプランの請求が時に70ドル(約7900円)を超えることもあるのだ。

これに対し、いわゆる仮想化されたネットワークの目的は、上記のカスタマイズされた機器が果たす機能の多くをソフトウエアプログラムに組み込み、それを既製品のサーバー上で動作させることにある。無線信号の処理などの作業をクラウド上で行えるため、通信事業者は設備投資や運用コストを減らすことができる。

クラウドベースの無線ネットワークを用いた市場参入を試みる企業の一つが、東京に本社を置く電子商取引大手の楽天だ。国内第4の通信事業者として全国規模の無線ネットワークを構築し、すでに高速通信規格「5G」サービスの提供を開始。国内で計85%のシェアを占める既存3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)に競争を仕掛けている。

「(既存3社と)同じやり方では競争はできないという話になった」。楽天モバイルの執行役員兼技術戦略本部長、内田信行氏はこう語る。

楽天は、モバイル通信ネットワークを構成する無線基地局とコアネットワークの双方を仮想化し、クラウド上で運用することを提唱する。それでもやはり各地に基地局を設置する必要はあるが、同社の基地局は従来型ネットワークに比べ、小型化・簡素化されている。音声通話やデータ要求の無線処理をする専用のハードウエアが不要になり、単に個々のデバイスからの信号を、クラウド上でそれを処理するソフトウエアに送信するだけでよいからだ。

楽天などのクラウド推進派は、ソフトウエア主導のネットワークの場合、更新作業が遠隔操作で一斉にできるため、基地局で個別に作業するよりも管理コストが低く抑えられると話す。また、問題が発生した時に修正したり、自然災害などで局地的に需要が急増した際にネットワークのリソースを移動したり調整したりするのも容易になるという。

楽天の試算によると、ネットワーク構築費用を40%節約することになり(それでも1兆円近くはかかる)、運用コストも大手通信事業者に比べて30%安くなる可能性があるという。同社は月額3278円の無制限プランを提供しており、競合他社の半額程度だ。

楽天など新興通信業者、切り札は安価なクラウド - WSJ

これは大胆な試みではあるが、成功が保証されているわけではない。

ガートナーのアナリスト、瀧石浩生氏は、柔軟性やコスト面から見て、いずれ5Gサービスにはクラウドベースのネットワークが不可欠になるとの見方を示す。だが当面の間は、大量のデータを迅速に処理するのに最適化された機器を用いる従来型ネットワークが通信速度で優位を保つかもしれない。

さらに言えば、楽天式のネットワークが従来型ネットワークより本当に費用対効果が高いかどうかは今後の検証が必要で、汎用サーバーの方が余計に電力を消費する可能性もあると瀧石氏は指摘。また、参入間もない楽天は、既存企業のような膨大なトラフィック(通信量)の試練をまだ経験していない。

とはいえ、通信事業の新規参入者は、仮想化とクラウドベースのネットワークに賭ける以外に選択肢がほぼない。楽天は8月、同社の技術をドイツの通信事業者1&1 AGに提供することで合意した。1&1 AGは年内にドイツで無線ネットワーク構築に着手する予定だ。

米国ではディッシュが、通信大手のベライゾン・コミュニケーションズ、AT&T、TモバイルUSに次ぐ第4の携帯電話サービス事業者になることを目指している。

衛星放送事業で知られるディッシュは、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が提供するクラウドサービスを用いた5Gネットワークの導入を計画している。同ネットワーク初の試験運用は年内にラスベガスで実施する予定だ。

ディッシュのチャーリー・アーゲン会長は8月9日に行われた決算電話会議で、仮想化によって、既存のインフラを持たない事業者にも競争のチャンスが与えられ、通信業界に変革が起きるだろうと述べた。

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一方、既存事業者もより慎重な態度ではあるが、仮想化技術を採用している。携帯電話サービス国内首位のNTTドコモは、コアネットワークの約半分を既製品のハードウエアで動作させ、音声通話も同様に処理しているという。同社は2024年度までにコアネットワークの仮想化を完了させる予定だ(基地局はその計画に含まれていない)。

ドコモは「軟着陸する方向性で全体の業務を見直し、仮想化で得られるメリットを最大化する」とした。

ベライゾンと韓国サムスン電子は最近、テキサス、コネティカット、マサチューセッツの各州において完全に仮想化されたエンド・ツー・エンドの5Gデータ通信セッションを終えたと発表。ベライゾンはこの試験で、従来のハードウエアベースの機器と同等の通信速度を実現したと明らかにした。

「先進5Gネットワークが可能にするサービスを提供するために、仮想化は極めて重要だ」とベライゾンは述べている。