Android、iOS以外のモバイルOSを――NokiaでMeeGo端末の開発に携わっていたチームが2011年に立ち上げたJollaはフォーカスを絞り、動きの激しい携帯電話業界で今も生き残っている。
スペイン・バルセロナで開催された「MWC 2018」でJollaは最新版「Sailfish 3」を発表。2018年は日本市場でも提供が始まるという。JollaのCEO兼共同創業者、Sami Pienimaki氏に話を聞いた。
Sailfish OSが動くソニーXperia。OSをダウンロードできる「Sailfish X」プログラムの最初の製品だ
すでに日本の通信事業者とも交渉を開始2018年はXperia向けの「Sailfish X」を日本で提供
――今年のMWCでは「Sailfish 3」を発表しました。
Sailfish 3はユーザーインターフェースを大きく改善し、マルチタスクや片手での操作など、さらに快適に利用できるようになった。2ジェスチャーで大抵のことができるし、通知からの移動もさらにスムーズになった。プライバシーやセキュリティーも強化し、Sailfishの特徴をさらに高めた。
Jolla社CEOのSami Pienimaki氏
大切なことは、Sailfish 3でデバイスのカテゴリーを拡大したことだ。ノンタッチ端末のユーザー体験が加わった。これは我々が進めている法人向け事業で重要になる。
会期中にPlanet Computersと提携し、(QWERTYキーボード付きのAndroid端末でPSIONの復活として話題の)「Gemini PDA」でSailfish OSが動くようになることを発表した。また、ロシアのSailfish専業メーカーのINOIがSailfish OSを搭載したタブレットを2機種発表した。
PSIONの開発者が関わっていることで知られる注目端末にもSailfish OSが
フィーチャーフォンにも拡大する。どの事業者かは開かせないが、インド、日本の通信事業者と話をしている。1年以上前から作業しており、準備はできている。このように、Sailfish OSはタブレット、PDA、スマートフォン、フィーチャーフォンと様々なデバイスで利用できる。
――2017年にスタートした「Sailfish X」について教えてください。
我々の中核はSailfish OSのライセンスだが、ソニー「Xperia X」シリーズ向けにSailfish OSを49ユーロ(約6500円)でダウンロードできるプログラムとしてスタートしたのが「Sailfish X」だ。ソニーの「Sony Open Device Program」を利用したもので、Xperia Xのユーザーはダウンロードしてインストールし、Sailfish OSを利用できる。MWCでは1月に発表されたばかりの「Xperia XA2」にも対応することを発表した。
Sailfish Xが動作しているXperia
Sailfish Xは2017年10月に欧州向けにスタートしたが、端末が1種類しかないことを考慮すると素晴らしい成果が出ている。今年はインドなどに拡大するが、日本市場でもSailfish Xの提供をスタートする。Sailfish OSはすでに日本語のサポートがある。日本は我々にとって面白い市場で、しっかりしたSailfishのコミュニティーがある。それなりの規模のファンがおり、一緒に展開したいと思っている。
Sailfishコミュニティーがシャオミ、ファーウェイなどの端末向けにSailfish OSのポーティングを進めており、50機種程度ある。最終的にはすべてのコミュニティーにSailfish Xを提供したい。
コミュニティーはグローバルにあり、人数にして1万人ぐらい。そこからの貢献がSailfishの強みだ。ソフトウェア開発で重要な役割を果たしており、Gemini PDA向けの作業もほとんどがコミュニティーで進められた。我々は最後に検証など製品にするための作業をしただけだ。
メインは法人向けのライセンスビジネス中国やロシア、中南米で実際に活用されている
――JollaのビジネスにおけるSailfish Xの位置付けは?
我々にとってSailfish Xは中核のビジネスではない。コアビジネスはSailfish OSのライセンスで、中国、ロシア、ラテンアメリカなどの市場で主として法人向けを狙っている。コンシューマーはメインのターゲットではない。
ロシアの郵便局員が使っているというINOIの端末。INOI R7をベースにしており、落下対策されている。専用アプリのアイコンがある
コミュニティーは楽しいし、Sailfish Xにより売上も出てきたのだが。我々にはコミュニティーが必要だが、ライセンスが事業の中心だ。ライセンシーはIntek、INOIなど約10に達していており、2018年にはさらに増える。
中国でも、Sailfish Chinaコンソーシアムを通じて年内に製品が登場する予定だ。2017年にパイロット展開を行っている。ロシアではOpen Mobile Platformとして法人向けに提供している。INOIは2017年のMWCで最初の製品を発表し、今年はタブレットも発表した。顧客の例としてロシアの郵便局員がSailfish OSを搭載したINOIの端末を持ち歩き、料金を徴収できるPOSのように使っている。ロシアは今年、さらに規模を拡大する。
ラテンアメリカではJala Groupと2017年秋に提携しており、2018年夏に端末が登場する予定だ。これも法人向けで、セキュリティーを強化し、モバイルデバイスマネジメントなどの機能を持つものになる予定だ。
中南米で発売予定の「Jala Accione」。ボリビアで発売し、ブラジルにも拡大する
Sailfish OSはフィーチャーフォンにも活用可能日本のケータイにも使ってもらえるのではないか
――フィーチャーフォンのニーズをどう見ていますか?
関心があることは確か。
たとえば、インドでは大手通信事業者がフィーチャーフォン「JioPhone」をローンチした。エントリーレベルのスマホより安いが、昔のフィーチャーフォンよりも多機能。もう”単機能”とは言えず、タッチではないからスマートなフィーチャーフォンというところだろうか。低スペックのハードウェアでメモリーも小さく、アプリケーション側も制限がある。事業者やメーカーはスマートフォン市場に悪い影響を与えたり、ユーザーを混乱させたくない。アプリケーションがあまりない電話は、一部のセグメントには重要だ。
あるメーカーが作ったというSailfish OS搭載のフィーチャーフォンの試作機
一方、日本市場の場合は、消費者は価格を理由としてフィーチャーフォンを選んでいるのではなさそうだ。プレミアムフィーチャーフォンのセグメントがまだあり、それなりの規模があると見ている。日本の折りたたみ式携帯電話は高度で多機能だ。Sailfish OSが貢献できるなら、喜んで日本のフィーチャーフォンユーザーに使ってもらいたい。
――日本のパートナーからどのような声が出ていますか?
Jollaとの協業から得られる価値として、Sailfish OSのカスタマイズ性がある。事業者は自分たちの要求に合わせてカスタマイズできる。ユーザー体験、プリインストールするアプリ、選択したアプリでアプリストアを作ることなどができる。これは、Android Goではできない。Googleのサービスが入るし、カスタマイズもできない。ここがSailfish OSへの関心の理由だろう。
――iOSとAndroidが独占しているが、Sailfish OSのポジショニングは?
iOS、Android以外にあまり選択肢はなくなった。
台湾の「KaiOS」(今年のMWCでNokiaが発表した“バナナフォン”こと「Nokia 8110 4G」にも採用)がフィーチャーフォン向けにあるが、アプリが動かない。だが、Sailfish OSは可能だ。Sailfish OSは軽量で、ロースペックのハードウェア上でも動く。512MBのRAMでAndroidアプリも動く。通信事業者やメーカーはカスタマイズでき、カスタムのアプリストアを提供できる。グーグルのエコシステムの制約を受けない。
――2018年の目標は?
新しい市場に拡大の計画があり、これを実現していきたい。2018年中に中国、ラテンアメリカなどだ。アジア市場では大規模な実装が年内にスタートする計画だ。
日本ではSailfish Xを年内にスタートさせるし、フィーチャーフォンも実現させたい。