「継承と挑戦」をキーワードに掲げたヤマハの新ルーター「RTX1210」がいよいよ出荷開始となった。型番からは想像できないフルモデルチェンジを果たす一方、ヤマハルーターならではの安定感・信頼性を合わせ持つ製品の魅力を探ってみた。
クラウドへの入り口で屋台骨の役割を果たすルーター
スモールビジネス向けギガビットルーターの定番とも言える「RTX1200」が登場したのは2008年にさかのぼる。この6年の間に、IT業界は実に大きな変化を遂げてきた。仮想化技術の発展やITでのTCO増大、ネットワークの高速化などの行き着く先として、クラウドコンピューティングが一気に台頭したのはご存じの通りだ。メールやWebホスティング、グループウェアのみならず、営業支援や顧客管理、会計・ERPなどさまざまなアプリケーションがクラウドを介して利用されるようになっている。
ギガビット対応のヤマハの新ルーター「RTX1210」
もう1つの変化として指摘しておきたいのが、企業のインターネット接続手段がベストエフォート化しつつあるという点だ。今から15年前、企業がインターネットや他拠点と接続するには高価な専用線を利用するしか方法がなかった。しかし、広域EthernetやIP-VPNなどのVPNサービスが登場し、中継網の利用に関しては距離を問わない料金体系となった。でも、昨今は従来ベストエフォートと呼ばれていたブロードバンド回線とインターネットVPNがすっかり一般的になった。ギガビットの光ファイバー回線が低廉になり、帯域あたりのコストが劇的に下がる一方、インフラとしての回線の安定度も向上。もはや企業でも十分利用するに耐えうるようになった。
こうした時代背景もあり、オフィスとクラウドの接続を担うルーターの役割はますます重くなっている。従来のようにLAN内にサーバーがあるというオンプレミスのみならず、クラウド上にアプリケーションがあり、今後はそれらを連携させる時代になる。高い性能と安定したインターネット接続を実現するルーターはまさにスモールビジネスの屋台骨であり、決して妥協した製品選びはできないと言えるわけだ。
その点、長らくヤマハのルーターは安定したインターネット接続とVPNを提供してきた。そして今回登場したRTX1210はこの歴史と実績を継承しつつ、既存のルーターの枠を超えるユニークな取り組みにチャレンジしている。前置きが長くなったが、実機をレビューしてみよう。
「RTX1210」と8ポートPoEスイッチ「SWX2200-8PoE」と無線LAN AP「WLX302」を用意してもらった
RTX1200と変わらない外見だが中身はすごい
RTX1200がプラスチック製だったのに対し、RTX1210は金属製に変わっている。そのため持った感覚がかなり異なる。前面は、シリアルがD-SUBからRJ-45になったくらいで前モデルのRTX1200とほぼ変わらない。LANインターフェイスは3つで、そのうち1つが8ポートのスイッチングハブ。コンフィグ保存やモバイルWANでの接続に利用できるUSB・microSD端子もRTX1200と同じだ。
奥行きは3cm強短くなり、差し込みプラグを外部に出さないよう工夫されている。また、電源も新たにAC200Vに対応し、着脱式の抜け防止金具が同梱されるようになった。とはいえ、おおむね従来と同じ感覚で利用できると言えるだろう。
電源プラグが後ろに出ないよう、筐体が大きくえぐれているのが特徴
あまり変わらない見た目に比して、内部的なハードウェアの進化は著しい。MIPS 300MHzだったCPUは、PowerPC 1GHzとなり、メモリ(ROM/RAM)はRTX1200に比べて倍増。6年のギャップを取り戻すような大幅な改善が施されている。これなら将来的なソフトウェアによる機能強化にも十分耐えられるだろう。
これに伴いルーティングやVPNの性能も向上している。ルーティングはRTX1200の倍となる1Gbps、VPNに至っては200Mbpsからなんと最大1.5Gbpsというジャンプアップを遂げている。そして、特筆すべきは、RTX1200で2万だったNATセッション数が6万5534にまで拡大した点。ポートを消費しない独自のIPマスカレードで実現したNATセッション数の拡大は、数多くの同時セッションを貼るモダンなWebアプリケーションに効いてくるはずだ。
その他、複数のLANリンクを束ねることで冗長化・広帯域化を実現するリンクアグリゲーションや、ファームウェア更新時の誤操作トラブルを防ぐFlashROMのフェイルセーフ機能、シリアルインターフェイス(ボーレートの高速化や文字コードのUTF-8対応)などを取り入れられ、細かい使い勝手の改良が施されている。こうした点は従来からのヤマハルーターファンにとってもうれしいところだ。
RTX1210とSWX2200-8PoEをWLX302をつなぎ、いざ試用開始
RTX1210で推進されたのは「使える見える化」
RTX1210の最大の挑戦は、やはりGUIの刷新である。リソースやシステム、インターフェイス、トラフィックの情報をまとめて一見できる「ダッシュボード」を搭載したほか、LANの接続状態を一覧表示する「LANマップ」や個人向け製品で培ってきた「かんたん設定」が搭載され、導入や運用をサポートする。
RTX1210を起動し、LAN内のPCから新GUIにアクセスすると既存のメニューとかなり違うことに驚く。トップのダッシュボードには、ファームウェアやMACアドレス、設定ファイルなどのシステム情報、CPUやメモリのリソース情報、筐体前面を模した画面で接続状態を表わしたインターフェイス情報、LAN内の通信を表わすトラフィック情報など4つのガジェットが表示されている。これらのガジェットは右のメニューから追加と削除が可能。VPN接続状態やNATセッション数、不正アクセス検知履歴、SYSLOGなどが用意されているので、必要に応じて選択すればよい。
動作状況を一目でチェックできるダッシュボード。ガジェットが入れ替えられるのもユニーク
本体の基本設定やインターネットやVPNの接続を行なう場合は、上部にある「かんたん設定」のメニューをクリックする。ウィザード形式で必要な項目を入力、選択していけば設定が完了するというもので、見た目は違えど、基本的には過去のヤマハルーターと同じだ。設定項目をきちんと用意しておけば、操作に迷うことはないだろう。その他、ルーティングやNAT、IPフィルター、DNS、DHCPサーバーなどの設定は「詳細設定」、ユーザーやアクセス管理やファームウェアのバージョンアップなどは「管理」のメニューで行なう。
「詳細設定」内のルーティング設定
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