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写メールするのもひと苦労 スマホのネット環境が最大の不満@色丹島

昨年11月下旬、色丹島に派遣していたフリージャーナリストのウラジーミル・ラブリネンコさんから電話があり、申し訳なさそうに次のように話した。「今日は通信環境が悪くて写真が遅れません。明日、もう一度チャレンジしてみます」

北方領土は日本人が普通に訪れることができないため、今回のような取材をする場合はロシア人の助手を派遣することになる。その場合、最も困るのが通信事情だ。通話は集落の中ならほぼ問題はないが、写真などちょっと大きいファイルは送るのが非常に難しい。私としては、現地の様子を知るため、できる限り早く写真を見たい。メドベージェフ首相のような大物が訪問したときにはなおさらだ。だが、翌日まで届かないことも珍しくない。

そのため、ロシア人フリージャーナリストや助手からはいつも、「いまは写真が送れません。夜に頑張ります」「10枚ほどの写真を送るために1日中、パソコンの前に座っています」といった言葉を聞くことになる。動画は最初から送るのは考えない方がいいレベルだ。

なぜこんなに通信が遅いのか。色丹島でスマートホンやパソコンの販売店を経営するミカイル・ドゥダエフさんは「携帯電話の通信回線の容量が小さすぎる」と説明する。色丹島に限らず北方領土では、大半の住民はインターネットをスマホや携帯電話で利用する。有線のインターネットがあるのは、役所や図書館など限られた施設だけ。もちろん、個人的なパソコンの接続は許されていないからだ。

写メールするのもひと苦労 スマホのネット環境が最大の不満@色丹島

色丹島では、ロシアの大手携帯電話会社である「MTS」「MegaFon」「Beeline」の3社がそろっており、うちMTSとMegafonは3G(第3世代移動通信方式)と比較的、高速な回線ではある。しかしサハリン州政府が設置したパラボラアンテナで島外とつながっているので容量の拡大は難しく、利用者が多い昼にスピードが遅くなる。漁業や建設業で出稼ぎ労働者が増える夏場もつながりにくくなる。そのため写真など大きなファイルを送ろうとすれば、みんなが寝静まった深夜で挑戦するしかない。ドゥダエフさんは「天気が悪い日はみんなが家にいるので、一気にインターネットがつながらなくなり、YouTubeも見られない」とぼやく。

Beelineに至っては、まだ2G(第2世代移動通信方式)だ。ちなみにロシアでは現在、モスクワはもちろん、北方領土を管轄する極東のサハリン州の都市部でも、日本と同じような高速通信のLTEが普及している。ロシアの大陸側から色丹島に移住してきたオクサーナ・トマソンさんは「ここはインフラの整備が遅れており、なかでもインターネットは悪い」と不満顔だ。

集落を出ると、3社の中でも通信状況に差が出る地域があり、一部の場所でつながりにくいこともあるという。その上、「暴風雨になれば3社とも利用できないんだよ」とこぼす。また、MegaFonの通信設備に不具合があって通信が難しくなったときは、サハリンからの部品の到着が遅れて修理に時間がかかった。このためドゥダエフさんは、携帯電話に差し込んで使えるSIMカードを、3社すべてで持っている。「島民みんなにも同じように勧めているよ」と笑う。これだけ通信サービスはサハリンより劣っているのに、料金は同じだ。

もっとも同じ北方領土の国後島は、色丹島よりも通信事情が悪いと言われる。携帯ショップ店員のガリーナ・ロモフスカヤさんによると、取り次いでいる携帯電話会社はMTSとMegaFonの2社だけ。「写真を送る時間は、どこにいるかで大きく変わる。集落の一部では完全に圏外だね」と説明する一方、「うちの客はガラケーが多い。漁業など海の関係で働く人たちだから、高いスマホは必要ないわ」とも話す。ただ、島民のビクトル・ジョミンさんは「料金は高いのに、インターネットの快適さはサハリンと比べて天と地ほどの差がある」と不満だ。「なぜあんなに高いのか分からない。誰もインターネットを使っていないのに」

色丹島のドゥダエフさんの店内には、サムソンやアップルなど世界でも人気のスマホがずらりと並んでいる。低価格モデルから高級モデルまで幅広くそろえているのが人気の理由だ。iPhoneなどの最新モデルも少し遅れて入荷はしてくるが、価格はサハリンなどに比べるとやや高い。そのほかパソコンなども並び、電子機器の品ぞろえはロシア本土にもそれほど劣らないが、いまのままでは機能の半分も使えない。

ロシア政府は現在、北方領土の通信環境に力を入れており、ロシアの通信大手ロステレコムが中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)と協力して択捉島や国後島、色丹島などを結ぶ光ファイバー回線の設置作業を進めている。すでに海底部分は作業が終わり、近く地上での作業も終わる見通しだ。「光ファイバーが敷かれれば通信が劇的に改善し、大陸の人にも疎まれることはなくなる」と期待するドゥダエフさんをはじめ、島民は1日でも早い完成を待ち望んでいる。