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スゴいのは宇宙に行ったことだけじゃない。『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』ネタバレぎりぎりレビュー

ド派手なおバカ映画というイメージを払拭しまくり!

8月6日、筆者が4Dデラックス鑑賞一択と信じてやまない『ワイルド・スピード』シリーズ(以下『ワイスピ』)最新作『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』が、ついに公開! いやー、今回もスゴかった。というか、今回はスゴすぎた。新型コロナで公開延期になってヤキモキしたけれど、劇場公開を待った甲斐がありました。尋常じゃなかった。すっごく面白かった! 試写会を見たレビューをお届けします。

「スゴイ面白い」と頭の悪そうなコメント並べ立てられたところで「一体何がどう面白かったんだ。」と言われること間違いなしなので、ストーリーの概要を紹介しつつ、面白ポイントを解説していくとしましょう。

以下、『ワイスピ』シリーズ過去作、および本作『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』中盤までのネタバレが含まれています 。

前作から5年の月日が流れた...

まず、今回の時間設定は前作『ワイルド・スピード ICE BREAK』の5年後。つまり、サイバーテロリストのサイファーの計画を打ち砕くためにロシアの氷上を爆走して潜水艦を止め、ドムが隠し子をレティのもとに連れてきて、「今日から育てるから(意訳)」と言った時からの5年後です。

リトル・ブライアンを育てるために隠居暮らしをしていたドムとレティのもとに、再び地球規模の危機を救うヘルプ要請が。しかし、リトル・ブライアンを危険に晒したくないドムは難色を示します。一方のレティは急に託されたリトル・ブライアンを、戸惑いつつも受け止め愛情を注いで育ててはいるものの、自分らしくない人生を歩んでいると悶々とした日々を送っていました。

そこへ降って沸いて出た要請に、レティは人生を取り戻す活路を見出したかのように喜び“ファミリー”のもとへ。ところが敵はドムの弟という事実を知り、“ファミリー”はドムのファミリーヒストリーを紐解いていくことに…(ぶっ飛びカーアクションと共に)。

私たちはクルマの10%以下の能力しか使えていない

『ワイスピ』シリーズに求めるものといったら、何と言ってもカーアクションではないでしょうか。2001年に『ワイスピ』が彗星の如くハリウッドに現れた時から、観客はギア捌きとクラッチ捌き、ニトロのポチりに心を奪われました。シリーズを重ねるごとにロードレーサーの枠を超え、いつしか「世界を救うのはドムかイーサン・ハント(『 ミッション:インポッシブル 』ね)か」のレベルに到達してしまいましたが、シリーズがオリジナルから大切にしてきたものは常に「クルマの限界への挑戦(と家族愛)」でした。

で、今回なんですが、しょっぱなから地雷の埋まった土地をクルマで爆走し、レティがバイクが曲芸ばりの疾走を披露。クルマの大ジャンプにマグネット搭載飛行機、クルマの宙吊りのバンジージャンプや死亡不可避の大回転(相変わらず生きてるけど)やら、高級車が高級車であることを微塵も感じさせないほどの大アクション。

さらに今回は、マグネット搭載車両が街をヒッチャカメッチャカに! ワイヤーで銀行強盗していた時代が懐かしいよ…。極め付けは、みなさんもトレーラーでご存知、ポンティアック宇宙へ行く。

もう笑うしかない。そして認めなければ。私たちはクルマのポテンシャルを過小評価しすぎている。『ワイスピ』シリーズをみる限り、私たちはクルマの10%かそれ以下の割合しか使っていない。

笑えることを大真面目に

しかし、笑ってばかりはいられません。というのも、この映画に登場する馬鹿げたカーアクションはリアルだから。クルマが宇宙に行くことだって、完全なる絵空事じゃない。クルマにジェットエンジンを背負わせたところで熱圏に行くことは難しいと思いますが、2018年にイーロン・マスクはロケットのバラスト代わりにテスラを乗せてシュールな映像を宇宙から地球に届けたのは記憶に新しいでしょう。

スゴいのは宇宙に行ったことだけじゃない。『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』ネタバレぎりぎりレビュー

それに、カーアクションはほぼすべて本物のクルマを使って行っているんです。

例えば、磁力で引っ張られてしまって建物の中を突っ切ってしまうクルマは、CGIで作れば良いものを、8ヶ月もかけて綿密にシミュレーションしてレールの上をクルマが移動し、トラックの中に吸い込まれるようにダイブ。その後ろには、プログラムされたモーションコントロールカメラが2台待ち構えていて、走り去るトラックを映し出します。

その他、フリップさせるクルマやコンボイも全てワイヤーや「フリッパー」と呼ばれる車両をひっくり返す特殊な機械を使って実際に再現しているんです。「どうせCGでしょ〜。」なんて余裕ぶっこいて見ていたら、撮影裏話を見てジャンピング土下座するレベルなんです。

シリーズ9作目にしてついに登場人物の背景が…

とはいえ、アクションのヤバさは毎度のこと。今回の真の見どころは、もしかしたらシリーズ9作目にして初めて、トレット家やレティの心情を深堀したところかもしれません。

ドムの兄弟といえば妹のミアでしたが、実は絶縁状態の弟がいることが判明。しかも、その弟ジェイコムはドムと同等のドライビングスキルと屈強な体を持ち、超お金持ちのサポートを受けていて、世界を手にする野望を抱いているという…。

弟の存在なんてまったく触れられたこなかったのでポッと出の設定に驚きを隠せませんが、ふたりは父親の死をめぐる壮絶な確執があり、かつ、ドムはファミリーの恥を晒したくないというプライドからか、ジェイコムの存在を「なかったことに」していました。

そして、ジェイコムこそが、ドムが擬似家族に固執する原因であったことが明らかになっていくのです。

しかし、筆者が何よりも嬉しかったのは、スリルジャンキーなレティがリトル・ブライアンの出現にどんな気持ちだったのかが窺い知れたこと。

前作のラストのファミリーバーベキューで、彼女は「俺の子どもだから。(意訳)」といきなり幼児を渡されました。いくら自分が事故で死んだことにされていた上に、記憶喪失になっていた時期におこった展開だからといって、ドムに新恋人がいて、その恋人が秘密裏に出産していたなんて。しかも、その恋人はすでに殺されていて、忘れ形見の息子を託してきたという重い事実を、バーベキューの時にサラッと言われて受け入れられるはずがありません。ところが、レティの気持ちは丸っと無視され、『ICE BREAK』はエンドクレジットに。

筆者は同じ女性という立場から、レティの気持ちが気になって仕方がありませんでした。いくらなんでもドムはレティを軽視しすぎている。レティのドムへの深い愛情と、忠誠心の上にあぐらをかいていると苛立ちも感じていました。本作では、レティが自分の気持ちと向き合って、自分なりの正しいステップマザー像を追い求めるのです。

ハリウッドのポリティカルコレクトをクリアする『ワイスピ』

60年代の女性運動以降、ハリウッドには強く独立した女性が登場する頻度が格段と上がり、昨今では多様性を重視して、セリフありの重鎮ポジションを与えられた有色人種も多数登場します。

しかし、ジャスティン・リン監督によると、「少し前までは、有色人種をキャスティングするためには特別な理由が必要だった。」とのこと。脚本にキャラクターの人種が書き込まれ、キャラクターのアイデンティティの中心とみなされていたらしいのです。

本作には、ある大人気キャラクターがカムバックしますが、彼が起用された時も、人種より中身が重視されたそう。

言われてみればその通りで、本作には多種多様の人種が登場しますが、人種をアピールしてるというより、そういう個性を持った人を探していたらたまたまその人種だったという描かれ方で統一されていることに気づきます。

女性の描写にしても、セクシーな女性とクルマという典型的な組み合わせを大切にしながらも、男性顔負けのドライビングテクニックで、時に強盗、時に世界平和にと活躍する様々な女性たちを登場させてきました。かつては当たり前だった「守られるヒロイン」はなりを潜め、限界ギリギリまで戦う。本作にはレティとミアとある少女がトリオで肉弾戦をする印象的なシーンがありますが、話の流れからそうなっただけで、あえて「強い女性の肉体的自立をみせたいから、こういったシーンを入れよう」というポリコレ対策のようには見えません。

『ワイスピ』シリーズは、難しいことを考えながら楽しむタイプの作品ではありませんが、ポリコレ目線で見てみると、意外なほど人種や設定に対してニュートラルなことに驚かされます。

ということで、色々と書き連ねましたが、『ワイスピ9』は暑い夏をよりアツくする豪快ぶっ飛びカーアクションスペースムービーなんです。

シリーズは10作目、11作目へと続くことがわかっているので、宇宙へいったクルマがその後どうなるのか、次はどんな展開を見せてくれるのか気になってしょうがない。私の凝り固まった頭じゃ想像できないので、むしろ子どもと一緒に鑑賞し、「次はどうなると思う? 」と聞いてみるのが答えへの近道かも。だって、マグネット搭載飛行機がジャンプしたクルマをキャッチして飛び立つってシーンは、そもそも関係者の子どものアイディアですからね。

嫌なことも面倒なことも全て忘れて楽しめる『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』は東宝東和配給で8月6日(金)から全国超拡大公開です。

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