ソニーは2021年11月10日、放送・映像制作のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するクラウド・IPソリューション強化の一環として、クラウド中継システム「M2 Live」の提供を開始すると発表した。
クラウド中継システム「M2 Live」の概要(発表資料から)[画像のクリックで拡大表示]同システムは、インターネット配信や報道中継などの各種のライブ映像制作を用途として想定する。スイッチャーなどの機器を設置・設定することなく中継制作を実現できる。映像のスイッチング、テロップの重畳、動画ファイル再生などといった映像処理をクラウド上で実行する。中継現場で映像をリアルタイムに切り替えて番組制作を行う中継車などの役割をクラウド上に構築でき、ノートパソコンやタッチパネルを使うなどして、場所を選ばずに遠隔から番組制作することが可能となる。クラウド上で制作した映像は、ダウンロードすることなく直接動画配信サービスに入力できる。
同システムは各種の映像フォーマットの入力に対応する。SRTやRTMPといった汎用プロトコルにより多くのカメラとの連携が可能。ソニー製XDCAMメモリーカムコーダーからはソニー独自のモバイル環境なども考慮したQoS技術に対応することで、より安定した映像転送を実現する。さらにスマートフォンに入力した映像を直接「M2 Live」へ伝送するモバイルアプリも同時開発した。
ソニーは2021年10月14日に、フジテレビジョンおよびサガテレビと共同で、今回のクラウド中継システムを用いた遠隔制御による番組制作の実証実験を実施した。東京都と佐賀県の2カ所で撮影した映像を5Gおよび4G回線を介して「M2 Live」へ送信した。そしてフジテレビおよびサガテレビからクラウド上の映像や音声をリアルタイムで切り替えるなどしながら、YouTube(非公開チャンネル)にライブ番組を配信した。
実証実験の概要(発表資料から)[画像のクリックで拡大表示]この実証実験では、従来は中継車を撮影地の2カ所に配置する必要のあった屋外からのライブ中継をクラウド上のシステムで代替できた。初期コストを抑えることができ、今後効率的なライブ制作の運用が見込めるとする。
現状では、ハードウエアを使うケースに比べると、クラウドを利用する場合は映像効果の種類や入力できる信号数などの面で制約がある。ただし、「どこかに映像を集めて機材を並べてスイッチングするのではなく、今回は契約すればすぐ使える。ハードウエアを使った中継とは別次元のもの」(ソニーマーケティング B2Bプロダクツ&ソリューション本部 B2Bビジネス部 統括部長の小貝肇氏)という。
ソニー イメージングプロダクツ&ソリューションズ事業本部VPの喜多幹夫氏は、「放送局の現場ではリモートで作業したいというニーズの高まりがある。また、制作した番組の出口として地上波や衛星といった放送に加えて、OTTによるデジタル配信にも放送局は取り組み始めている。設備投資して高価なスイッチャーを一括購入して準備するよりも、必要な時に事業運営費を用いてクラウド上のスイッチャーを借りて中継できるというメリットがクラウド中継システムにはある。例えば4K映像による本格的なスポーツ中継ではハードウエアのスイッチャーが必要だが、OTTのライブ配信といった用途であれば十分に使えるところに来ており、用途に応じて使ってほしい」と述べた。
ソニーは、これまでファイルベースのクラウドソリューションを既に展開、発表してきた。映像制作業界に向けたメディア管理・運用の統合プラットフォーム「Ci Media Cloud Services」や異なるマイクロサービスを自由に構築可能な「Media Solutions Toolkit」、今後導入予定のカメラ連携クラウドサービス「C3 Portal」である。
今回の「M2 Live」の提供開始により、ライブ中継の第1ステップとしてHDTV映像で8入力といったシステムは加わった。今後、さらに技術強化を進めて、よりハイエンドなライブ中継への対応をクラウド上で実現することを目指す。ファイルベースについても、既に始まっているAI活用を進化させるなど進化を図っていく方針である。
ソニーは、今回のクラウド中継システムなど各種クラウドソリューションのプラットフォームとしてAWS(Amazon Web Services)を活用しており、映像制作業界のDX推進に向けてAWSと連携の強化を図りながら開発を進めていく。
発表資料