なぜ同じチップなのに3倍もの価格差が!? マザーボードにはグレードがある
マザーボードのグレードは、チップセットや基本機能だけでは決まらない。ユーザーのニーズに合わせて、さまざまな付加価値が付けられており、それがマザーボードの価格差につながっている。
同じMSI製で同じZ690チップセットを搭載したマザーボード2製品だが、パッと見ても分かるように、装備や機能には違いがある。左のハイエンド製品「MEG Z690 ACE」と、同社のZ690マザーとしては最安クラスである右の「PRO Z690-A DDR4」とでは、3倍以上の価格差が付いている電源回路(VRM)はもっともコストがかかる部分で重要な差別化ポイントの一つだ。ハイエンドCPUをパワフルに使いたい場合には、高出力かつ高耐久設計のVRMを搭載した製品を選びたい。また、熱源になる電源回路やチップセット、SSDを冷却するパーツも意外にコスト増になる部分で、低価格マザーでは省かれやすい。金属パーツ/プレートを利用して基板やスロットを補強する頑丈設計というアプローチも見どころ。
上で、同じCPUを使う限りマザーによる性能差は小さいと書いているが、現実的にはハイエンドCPUやハイエンドビデオカードを低価格マザーに搭載するという極端な組み合わせは避けたほうが無難。スペック通りの性能は出るものの、ハイエンドパーツの真の実力が発揮しきれない、一部の機能が使えない、という可能性があるためだ。
ほかにも、カスタマイズ性、UEFIや付属ユーティリティの使い勝手にも特徴が出る。用途や予算も考えつつ、必要なモノを見極めよう。次項では、とくに注目したいポイントについて説明する。
電源回路は差が付きやすい
マザーの電源回路はグレードによる仕様の違いが大きい。一般的には回路の数を示す「フェーズ」と出力を示す「A(アンペア)」で表現され、フェーズ数が多く、Aが高いほど高性能(回路で使用されるパーツの種類・品質などでも価格は上下する)。高負荷時の負担が大きい部分だけに、高性能な電源回路を備えるマザーは安定性・信頼性・耐久性に優れ、ときにはハイエンドCPUの性能にも直結してくる。
通常の使い方であればCPUの消費電力急上昇によってシステムが著しく不安定になることは少なくなったが、ピーク性能の持続時間が短くなったりする可能性はある。CPUの性能を限界を超えて絞り出す“オーバークロック”に挑戦するなら、電源回路の強さは必須だ。逆に、消費電力がそこまで大きくないエントリー~ミドルレンジCPUを使う場合は、そこまで電源回路の性能をシビアに気にする必要はない。
低価格マザーの電源回路はシンプル大規模で高度な高性能マザーの電源回路ハイエンド機ほど冷却が重視される
電源回路やチップセット、M.2 SSDは高性能なほど発熱が大きく、これらの部品は高温になると保護のために一時的に動作速度を落として温度を強制的に下げる機能が働き、一時的に性能が低下してしまう。そのため、パーツが高温になることを防ぎ性能や製品寿命への影響を抑える冷却性能も、ミドルレンジ以上のマザーでは重視され、差別化ポイントとして各社とも力を入れている(一方で、こうした冷却パーツはコストがかかるだけに低価格帯の製品では省略されやすい)。
また、CPUを冷却するCPUクーラーのファン(および水冷クーラーのポンプ)、ケース内に設置するファンをマザーボードで制御できる“数”も、グレードが上がるほど多くなり、きめ細かいコントロールができる。なお、高性能SSDは高温になったときのパフォーマンスへの影響が大きいため、最近ではヒートシンクはほぼ必須と言われている。ただし、仮にマザーボードにSSD用ヒートシンクがなかったとしても、PCパーツショップなどではSSD用ヒートシンクが多数販売されているので、後付けでパワーアップすることも比較的容易。
発熱対策のヒートシンクが大型化高グレードほど制御できるファンが多いデザイン性も求められる時代
近年はデザイン、ビジュアルにこだわったマザーボード製品も多数登場している。細かい制御が可能なアドレサブルRGB LEDよる光る演出は定番だが、ミラーや半透明パーツを活用するなど発光ギミックも凝ったものになってきているほか、高級モデルではLEDでメッセージやロゴなどを表示できる製品もある。
ブラックやホワイトといったコーディネイトしやすいカラーリングで統一したり、ミリタリー調のデザインにこだわるなど、光る以外にも良質なデザインの製品も増加中。組み合わせるCPUクーラー、ビデオカード、PCケースとの連携で「見映え」、「写真映え」する自作PCを作る、というのも最近のトレンドの一つになっている。
“光る”マザーはトレンド“光らない”のもカッコよさの一つ設定画面・アプリケーションも進化中
マザーボードおよびPCのもっとも基本的な動作制御・設定を行なうUEFI。以前のBIOSに比べると、グラフィカルな操作画面になったことで操作性は大幅に向上したが、マザーボード自体の機能が増えているので、扱いには多少慣れも必要だ。
MSIのマザーボードのUEFI画面の例。以前のBIOSは文字情報だけだったが、現在はグラフィカルになり、マウスでの操作も可能になったまた、最近のマザーボードには、Windows用のマザーボード管理アプリケーションも提供されており、各社ともその改善に余念がない。設定の変更やマザーボードのモニタリングなどが可能になっている。UEFIに比べると設定できる項目は限られているが使い勝手はかなりよい。とくにミドル~ハイエンドユーザーには、CPUを含む動作温度・クロックのモニタリングや、パフォーマンスと静音性を細かくカスタマイズできるファン制御機能の導入は欠かせないだろう。
MSIの管理ツール「MSI Center」。現在のバージョンでは、マザーボードに限らず、同社製品を中心に幅広く統合的にPCの制御・管理が可能になっているモニタリング機能の画面。各部の温度やクロック、設定内容を一望できる多機能なMSI Centerだが、必要な機能だけを選んで導入することが可能