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コミュニケーションの再発明で1兆円企業を作るーー隠れたキーマンを調べるお・RevComm CTO 平村氏

編集部注:「隠れたキーマンを調べるお」は、国内スタートアップ界隈を影で支える「知る人ぞ知る」人物をインタビューする不定期連載。毎回おひとりずつ、East Venturesフェローの大柴貴紀氏がみつけた「影の立役者」の素顔に迫ります。シーズン2として2020年に再開

ここ数年に開催された多くのスタートアップイベントで優秀な賞を受賞しているスタートアップ、それがRevCommです。主力サービスである音声解析AI電話「MiiTel」はリモートワークが中心となった「ニューノーマル」な状況において一層の注目を集めています。本日はRevCommの初期から開発面において中心的な役割を担い、同社の成長を牽引しているRevComm執行役員CTOの平村健勝氏に話を伺いました。10代の頃からプログラミング言語を操り、大学院卒業後は大手コンサルティングファームで活躍。そんな平村氏がスタートアップへと身を転じた理由と、リモートワークにおけるTipsについても教えていただきました。

「使う側」よりも「作る側」に興味があった

大柴:『MiiTel』は全て自社開発だとお聞きしましたが、そんな高い技術力を誇る会社のCTOがどんな経歴で現在に至るのかを最初にお聞きしたいと思います。やっぱり子供の頃から理系が得意だったのですか?

平村:得意ではありましたが、むしろ社会とか地理などの方が得意でしたね。

大柴:そうなんですね。パソコンに触れたのはいつくらいですか?

平村:小学生の時だったと思います。Windows95が発売された頃でしょうか。普通にインターネットを利用するだけでしたが、中学に進学した頃から「使う側」だけでなく「作る側」の方に興味がわいてきたんです。それでウェブ系の言語、PerlやHTML、JavaScriptなどを覚えていきました。

大柴:個人ホームページを作ったり?

平村:そうですね、あまり記憶が残ってないですが、無料のホームページスペースを利用して作っていたと思います。高校に上がってからは独学でLinuxを勉強してサーバを自宅に立てたりしてました。遊び程度で、ガラケーのコンテンツやブラウザ上で動くゲームなども自作して提供していました。オープンソースを改良したりもしていました。

大柴:完全に「作る側」ですね

平村:そうですね。「もっと技術を身に付けたい」「もっといろんな事ができるようになりたい」と思って大学では1年生から研究室に通っていました。通常は4年からしか研究室には所属できないんですけど「プログラミングをさせてくれ」と懇願して、1年生から通ってました。そこで初めてちゃんとしたプロダクトを作りました。

大柴:どんなプロダクトですか?

平村:留学生向けの日本語テストです。受験者の能力に合わせて問題を出し分けるもので、最初は研究室の先生と二人で作っていたのですが、複数の大学との共同開発になっていき、規模が拡大していきました。アダプティブ・テスティングと呼ばれる、インターネットを使って受験者の能力をリアルタイムに推定して難易度の異なる問題を出し分けるって技術は世界的にも初めてだったと思うし、結構話題になったんですよ。

大柴:すごいですね

平村:このプロダクト開発を通じて「もっと高い技術を世の中に提供したい」という気持ちが芽生えていきまして、「じゃあ自分は何をすべきなのか?」を考えました。当時の流行だとOSを作る、新しい言語を作る、プロトコルを作るといったものが「高い技術の提供」かなと考えたんですが、どれも自分にとってはしっくりこない感じがしたんです。いろいろな理由を考えたんですが、明確に「これ」っていう理由は出てこない。でもなんか違うなと。

大柴:なるほど

平村:ちょうどその頃、Gmailが話題になり始めてたんです。まだ招待制だった頃だと思うのですが、そのGmailが優れていたのは「迷惑メールフィルタ」なんです。ナイーブベイズを活用していたと思うのですが、私たちが作っていた留学生向け日本語テストもベイズ統計を作った技術が用いられていたんです。そんなこともあり、これからはデータを活用して自動的に導いていく世の中になっていくんだろうなと感じました。それで確率や統計、ビッグデータ、機械学習などの分野をもっと深く学んでいきたいと思って大学院に進学することにしました。一時は就職も考えて、実際に内定ももらってたんですけどね(笑。

大柴:そうなんですか

平村:はい。でも内定先にはお断りの連絡をして、大学院に進みました。そこでは「人間の能力」という数値化できないものを測るというテーマなどを研究しました。大学院時代には海外留学も経験し、その際に「高い技術を持ってるだけではダメで、社会やビジネスの課題を解決するソリューションを作っていかないといけない」ということを学びました。

アクセンチュアからスタートアップへ

大柴:大学院を卒業した後はアクセンチュアに就職されますね

平村:はい。グローバルでエンジニアリングの仕事ができ、ビジネス的にインパクトの大きい仕事がしたいなと思い、いくつかの選択肢の中からアクセンチュアを選びました。アクセンチュアでは7年間働きましたが、様々な事にチャレンジさせてもらいました。あまり前例のない新規事業の立ち上げや、ビックデータ関連の組織を立ち上げたり。

大柴:充実した毎日を送っていたのかなと思うのですが、なぜ転職をされたのですか?しかも大企業からスタートアップへの転職です。懸念などもあったかと思いますが

平村:アクセンチュアでは様々な事をやり尽くした感はありました。転職も選択肢の一つかなと転職エージェントに登録していたんです。そうしたら會田(RevComm代表取締役の會田武史氏)からスカウトメールが来たんです。返信して会うなり、彼が実現したいことをとにかくマシンガントークで話されまして…(笑。

大柴:熱量がすごかったんですね

平村:そうですね。ただ、彼が話す「インサイドセールス業界における課題」は納得感があったし、もし実現できたら世の中にとってきっと役に立つものになるだろうなとは思いました。それで彼のやりたいことに対して「これはできる」「これは難しい」といったようなアドバイスをしました。さらにリリースまでのロードマップなどもそこで作りました。1時間くらい話したんですが、最終的に「やりましょう」ってことに。

大柴:「やりましょう」というと?

コミュニケーションの再発明で1兆円企業を作るーー隠れたキーマンを調べるお・RevComm CTO 平村氏

平村:まずは私のプライベートな時間を使って開発をお手伝いすることになりました。3カ月くらいでクローズドベータ版が完成し、テストを繰り返しました。「更にしっかりと作り込めば、世の中に受け入れられるものになるな」と実感するようになり、2018年6月にCTOとして正式にジョインすることになりました。

大柴:プロダクトの初期の手応えも転職のきっかけとなった要因の一つだとは思うのですが、その他に要因はありますか?

平村:大きな組織に属していると、何か新しいプロダクトやサービスを立ち上げるにあたって結構大変なんですよ。特に当時まだ30歳でしたし、出向先では上にたくさんの上司がいます。さらにグループ会社やバックオフィスなどたくさんの部門に説明やら調整やらが必要で、それが終わった後にようやくプロダクト開発などに入るわけです。その後もフェーズフェーズで調整は発生するでしょう。そういうことに疑問があった面もあります。

大柴:なるほど

平村:内部調整や外部との折衝などは非常に労力使うタスクですし、基本的に私には苦手なものでした。でもRevCommはスタートアップなので当然そういった調整作業のようなものは少ないし、外部との折衝なども會田がやってくれる。クローズドベータ版をテストで使ってくれる企業を探すのはとても大変な作業ですが、MiiTelでは會田がガンガン開拓してくれました。自分にとっては苦手な分野も會田にとっては得意な分野だったりして、うまく補完関係が築けるんじゃないかと。そういうことも転職の決め手となった一つでしょうか。

大柴:平村さんから見て、會田さんが「社長」として優れてるなと感じるところはどこですか?

平村:スピード感があるところや、楽しい組織を作ろうとしている点はリーダーとして良い点だと思います。一方で、楽しいサークルのような組織ではなく、きちんとした組織を作ろうとしてる点があるのが良いです。やはり企業向けのプロダクトを提供している会社ですので、外からも安心感と信頼感がある大人な組織にしていこうと考え、行動しています。そういうバランス感が優れている部分かもしれません。

大柴:なるほど。逆に會田さんにここを直してもらいたいとかありますか?(笑

平村:たくさんあるんですが(笑。直してもらいたいというわけではないですが、彼は車に例えると「アクセルしかない車」のような側面がたまにあるんです。ものすごい推進力がありますし、営業力もすごいのですが、ハンドル役やブレーキ役がいないと成立しない。私を含めて組織として彼を上手くハンドリングしていければいいなと思います。

「大切なことはシェア」「承認よりも顧客のための行動が先」という文化

大柴:緊急事態宣言も出て、御社もリモートワークがメインだと思いますが、そのあたりの苦労などありますか?

平村:弊社は元々がリモートメインなんです。特に開発陣は創業間も無い頃から全国にメンバーがいます。ですので、この状況でも特段慌てる事はなかったです。

大柴:そうなんですね。ではリモートワークで業務を行う上でのノウハウなどもお持ちなのではないでしょうか?

平村:本社で話し合われて決定した事項の一部分だけを各地のエンジニアに共有して、その一部分だけを作ってもらうというようなことはRevCommでは最初からやっていません。どこにいても常に情報の偏りがないようにしています。

大柴:以前、御社の方とお話した際に「入社間もない頃に、改善案などを立ち話でしていたところ、平村さんが『この先の議論はSlackでやりましょう』と言って、その場の会話をストップしてSlack上で議論を再開したのが驚いた」とおっしゃってました

平村:とても重要な議論だなと感じたので、そのやりとりを含めて残るかたちにした方がいいなと思って、そんなことを言ったのかもしれませんね。大切なことはシェアしないといけないと思いますし、「その情報は知らなかった」というのは無くしていきたいです。

大柴:たしかに、重要ですね

平村:あと、これはリモートにおいてもそうですし、それ以外でも重要だと思うのですが、ミーティングや会議などの回数であったり時間をとにかく減らしたかったので、RevComm創業の頃から決めているルールがあります。

大柴:興味深いです

平村:何かを決める時に、まず自分なりに考えぬいて、事前に決めておく。会議ではそれを確認するだけにする。例えば、新しいマイクロサービスを作るとします。その場合は会議の前にプログラミング言語やフレームワーク、システム構成、その他サービスを作る上で決めておかないといけないことを考えぬいて、会議では「今度のサービスで使う技術は…理由は…」と発表します。そこまで事前に考えていれば、会議では微調整だけで終わります。必然的に会議の時間は短くなります。

大柴:会議は確認の場ですね

平村:そうですね。各々が最大限考え抜いた上で議論をすることにより、クオリティと生産性が向上すると考えています。イメージとしては、議事録を先に書いて、会議ででた微調整の内容だけを書き直せば完成といったところでしょうか。

大柴:リモートワークだけでなく、ビジネスにおいて様々な場面で使えそうなTipsですね。他にRevCommならではのTipsというか取り組みのようなものはありますか?

平村:プロダクトの改善のスピードは競合優位性になっているかもしれません。そのためにお客様からの要望や、思いついたアイデアなどはすぐに実行するような組織になっています。例えば直近の事例だと、お客様から午前に要望の連絡があって、午後には対応方針を確定させて開発開始、そして翌日の朝にはすでに実装されてる。こんなスピード感を実現できています。こういった小さな積み重ねでお客様からの信頼は生まれてきますし、とても大切な事だと思っています。

大柴:なるほど。でも、他の会社とかでも同じように「要望に対して速やかに対応したい」って思ってると思うんですよ。でもそれを実現できてる会社って少ないのかなと思うんです

平村:「やりました」ってのが評価される会社にしたいんです。もちろんデメリットやリスクのある改修は実装前にストップさせる仕組みはありますが、実行するまでの時間をかけててもしょうがないし、先回りして実行することを高く評価する会社にしたいんです。

コミュニケーションの再発明で1兆円企業を目指したい

大柴:最後に平村さんが考える「会社で成し遂げたい夢」をお聞かせください

平村:そうですね、M&AやIPOがゴールだとは考えたことはなくて、1兆円企業を作りたいなと思っています。日本に100社程度ありますが、そういった企業にまずは肩を並べる存在になりたいですし、コミュニケーションの再発明によってそれを成し遂げたいと考えています。そのためには、連続的にプロダクト、サービスを作っていかないといけないし、もっと多くの人に使っていただけるようなものを作らないといけない。今のサービスをどんどんアップデートしていき、全てのコミュニケーションをデータ化し、そこで発見した気づきをもとに新たなサービスを作り上げていく。新型コロナウイルスの影響で遅延しましたが、今月1月にインドネシアでテストマーケティングも開始しました。日本のみならず、東南アジアなど海外展開もしていきたいですね。

大柴:課題のようなものは何ですか?

平村:CTOとして、皆がもっと効率よく、働きやすい環境を作って、お客様にもっと価値を与えられるような組織にしていきたいなと思うのですが、組織作りにおいてはまだまだ課題は残っています。自分自身もまだプレイヤーとして実際に手を動かして開発したりもしてますが、お客様の価値の最大化に集中できるようにしていかないとな、とは思っています。

大柴:RevCommは2019年、2020年と数々の賞を受賞してますが、これについて平村さんはどう思われていますか?当初の想定通りですか?(笑

平村:想定してたよりかは上手くいってるなという実感はあります。ただ現状は「スタートアップ」として認識されていると思いますが、その範疇を超えた社会的に大きな価値を提供する会社として認識してもらうように成長を続けていきたいなと思っています。

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