若い女性のかわいい自撮り写真(だけど正体はおじさん)――そんな画像を見たことはありませんか? 実はいま、男性がアプリで女性化した自分の写真をSNSに投稿することがブームになっています。その名も「#カコジョ」。「#加工女子」の省略形です。
カコジョの特徴は、自分は男性であり、写真の女性は実在しないと明かしていること。TwitterやInstagramに存在するアカウントには、「ファンタジーです」「中身は50代男性です」などの記載があります。誰かを騙そうとしているわけではなく、あくまでも架空の存在として一緒に楽しんでほしいというスタンスです。かつての「ネカマ」は男性が女性を装う(偽る)ことを指しましたが、カコジョは違います。
カコジョたちは、ハッシュタグで美しさを競い合うこともあります。自身もカコジョである「在宅のアーマー(@zaitaku_iyada)」さんは、4月に「#カコジョミスコン2021」を開催、期間中にいいね数を競い合うイベントを行いました。いまもハッシュタグで検索すると、多くの男性参加者による渾身の自撮り写真が多数ヒットします。
5月には「#カコジョ免許証選手権」も開催し、自動車免許証の写真部分を女性に加工した画像を投稿して競い合いました。カコジョ免許証選手権のツイート数は約200件。すべてがエントリーではないですが、自撮りで勝負するよりも、免許証の写真を加工するほうがが気軽に参加できそうですね。
カコジョはどのように加工して作っているのでしょうか。基本のアプリは、顔加工アプリ「FaceApp」です。FaceAppは、写真や動画の顔部分をAIで解析し、性別や年齢を変えたり、メイクアップを施すことができます。カコジョたちはこのアプリで性別を変え、女性の風貌へと編集します。
そして、「年齢」機能で「子供」や「10代」、「若返り」を選ぶとさらに劇的に変わります。試しに私の写真でやってみたところ、女性なので女性化してもほとんど変わらなかったのですが、子供にしたとたん、かわいいギャルが誕生しました。完全に別人です。
カコジョたちのツイートを見ていると、別のアプリでさらに加工を重ねているようです。名前が挙がっているアプリは「Meitu」。こちらは女性向けの自撮りアプリで、美顔補正機能に優れており、顔の輪郭や目の大きさ、パーツの位置などを細かく編集できます。やり過ぎると不自然になってしまうので、カコジョたちはFaceAppとMeituを駆使して、まるで実在するようにナチュラルな加工をすることがポイントだそう。
FaceAppは約1年前にブームになり、当初は性別を入れ替えた画像を見せ合うだけでした。その人気はじわじわと続き、機能も向上してより楽しめるアプリになっています。おじさんでも美しい女性になれると再び盛り上がりを見せ、カコジョブームにつながりました。
おじさんたちはなぜカコジョに燃えるのでしょう。あるカコジョ男性に聞いたところ、「自分に似ていて親近感があるし、孤独を癒やせる」と話していました。私は女性だからか、いまひとつピンと来なかったので、ほかの理由を考えてみました。もしかしたら「なり垢」を楽しむ心理に近いのではないかと思っています。
「なり垢」とは「なりきりアカウント」のことで、好きなキャラクターになりきったアカウントを作り、そのキャラクターが言いそうなことを投稿したり、ほかのなり垢と会話して楽しむことです。そのアカウントでは、まるで自分が憧れの存在になったかのような気持ちになるわけです。
カコジョは実在しないため、「こんな女性がいたらいいな」と想像したり、「こんな子よくいるよね」と思いながら文章をつづったりすることが楽しいのでしょう。また、角度や表情を工夫して、よりかわいい女性を作り上げることが面白いという人もいるかもしれません。
最近は顔写真を瞬時に加工して、アニメ風にしたり、映画の1シーンに溶け込ませるアプリも出てきています。デジタルツールの進化で私たちの遊びも拡がりましたね。
すずきともこITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー。SNSやスマホなど、身近なITに関する記事を執筆。10代のスマホカルチャーに詳しく、女子高生とプリクラにも出かける。趣味はへんてこかわいいiPhoneケース集め。著書は「親子で学ぶスマホとネットを安心に使う本」(技術評論社)など20冊を超える。