河野氏「イギリスは太平洋パワー」
[ロンドン発]日本の河野太郎防衛相は21日、英下院外交委員会のトマス・トゥーゲンハット委員長が主宰する保守党内の中国研究グループ(CRG)のオンライン勉強会に参加、アングロサクソン5カ国による電子スパイ連合「ファイブアイズ」に参加したいと述べたそうです。
河野氏は「イギリスは自由で開かれたインド太平洋を保つため日本と協力するべきだ」と述べ、来年任務につく新型空母クイーン・エリザベスの空母打撃群の極東常駐のオプションを作成したという英紙タイムズの報道に関連して「クイーン・エリザベス号を歓迎する」と応じました。
トゥーゲンハット委員長のツイートを見ておきましょう。
「日本の防衛相は来年のクイーン・エリザベス号派遣(日米合同軍事演習への参加が検討されている)を楽しみにしている。イギリスを太平洋のパワーだと表現した。イギリスの(インド太平洋)地域へのより広い関与を促した」
「日本の防衛相はイギリスに日本を含む11カ国の環太平洋経済連携協定(TPP11)への参加を求めた」
「中国は今や拡張主義国だ。彼らは中東からの石油とガスに依存しており、地域の周りに港を建設している。ジブチ、パキスタン、オマーンなどだ」
「(中国の)長期融資は港を乗っ取るために使われる。スリランカのハンバントタ港およびラオス、カンボジア、バヌアツの港は世界が抱える難題を示している」
「デジタル人民元」に気をつけろ
「融資や決済のためにデジタル人民元が使われる。これは北京に送られるデジタルクラウドを構成する。ジブチやその他の国々でのデータ収集は現在増加している」
「新型コロナウイルス後の世界は困難に見える。国家vs自由市場、民主主義vs権威主義国家といった対立が深刻化している」
「中国との協力を望んでいたが、中国の習近平国家主席は中国共産党を拡大主義に方向転換させた」
「国営企業を隠れ蓑にした拡張主義者がわれわれの技術を買い漁っている」
「中国の弱点は人口構成だ。彼らは豊かになる前に年取っていく。誰が両親の世話をするのか」
「習氏はライバルを排除するために腐敗を片付けようとした。それは中国共産党の評判を再確立した」
「彼らは国際社会を分割するために、ドル経済圏と国際銀行間通信協会(SWIFT)のシステムから逃れようとしている」
「TPPはもともと貿易だけでなく、太平洋地域で雇用やその他の基準を設けるためのものだった」
「TPPにはイギリスとインド太平洋の他の国々を含める必要がある」
「東南アジア諸国連合(ASEAN)は昨年、私たちにアメリカと中国という選択させないでと訴えた。しかしその夜、国防相の夕食でタイ海軍の軍楽隊がアメリカのポップミュージックを演奏した。それはASEANの選択が明確だというソフトなメッセージだった」
「日本の防衛相はファイブアイズをシックスアイズに変える考えを歓迎する」
「河野太郎防衛相、安全保障環境の課題に関する素晴らしい説明と強力な洞察に感謝する」
米国務長官「対中包囲有志連合の構築を」
一方、訪英中のマイク・ポンペオ米国務長官は21日、ボリス・ジョンソン英首相やドミニク・ラーブ英外相と会談。外相との共同記者会見で「私たちは香港の自由が押し潰され、中国共産党が近隣諸国をいじめたり、南シナ海を軍事化したりするのを目撃した」と話しました。
ポンペオ氏は「合法的な根拠のない海域で領有権を主張することはできません。ヒマラヤ山脈で近隣諸国を脅していじめることはできません。WHOのような国際機関で隠蔽を行ったり、取り込んだりすることはできません」と中国を厳しく批判しました。
そして「中国共産党に、こうした行動を取ることは彼らにとって最善の利益ではないと確信させるために、驚異を理解する有志連合を構築できることを願っています」と呼びかけました。有志連合はアングロサクソン5カ国による「ファイブアイズ」が軸になります。
英メディアによると、英シンクタンク、ヘンリー・ジャクソン・ソサエティーが主催した下院議員との非公開会合で、ポンペオ氏は「確たる情報に基づくと世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は中国に買収された。そのせいで多くのイギリス人が死んだ」と指摘。
トランプ政権が離脱を決定したWHOについて「科学に基づく組織ではなく、政治的な組織だった」と非難したそうです。
中国新疆ウイグル自治区でウイグル族(イスラム教徒)を弾圧した人物に関する情報を英政府に手渡したと発言。重大な人権侵害に関与した人物や組織に査証発給禁止や資産凍結の制裁を科す「マグニツキー法(人権制裁法)」の発動をイギリスにも促したとみられています。
ポンペオ氏の訪英にはイギリスの欧州連合(EU)離脱後の自由貿易協定(FTA)交渉も含まれていますが、次世代通信規格5Gや香港国家安全維持法、新疆ウイグル自治区の人権問題でアングロサクソン諸国を中心とした対中包囲有志連合を構築するのが狙いです。
対抗措置を連発するイギリス
中国による香港国家安全維持法の強行に対して「一国二制度」や「高度な自治」を約束した英中共同宣言の当事国であるイギリスは次々と対抗措置を発動しています。
(1)英海外市民旅券の保有資格を持つ約300万人のイギリス滞在期間を半年から1年に延長。一定期間の留学や就労を経てイギリス市民権取得への道を開く。
(2)中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の5G参入問題で、5月の米商務省による新たな制裁を理由に、1月の限定容認方針から2027年までに全面排除する方針に転換。
(3)香港との犯罪人引き渡し条約や武器輸出を停止。
米英FTA締結を急ぎたければ、ウイグル族弾圧を理由に中国共産党関係者に対して「マグニツキー法」を発動しろとポンペオ氏はジョンソン首相とラーブ外相に迫ったわけです。中国とアングロサクソン経済圏のデカップリングは不可逆的に進行しています。
ファーウェイの5G という「踏み絵」
アメリカが突きつけたファーウェイの5G参入問題の「踏み絵」を踏んだのは次の国々です。
【禁止した国】
アメリカ、イギリス、スウェーデン、ポーランド、デンマーク、チェコ、ラトビア、エストニア、ルーマニア
【禁止した企業】
日本(NTT)、インド(ジオ)、オーストラリア(テルストラ)、韓国(SKテレコム、KT)
11月の米大統領選で再選する見通しがコロナ危機の拡大でほとんど消えかけているドナルド・トランプ大統領にとって切れるのは、人種問題に関わる「文化戦争」と「対中強硬」カードしかありません。
中国のデカップリングがどこまで進むのかはまだ分かりません。民主党のジョー・バイデン副大統領が当選した暁には、トランプ現政権下で急加速した中国のデカップリングは急減速してしまう可能性は十分にあります。
しかし筆者は香港国家安全維持法の強行で中国は最後の一線を越えたとみています。
(おわり)