アップルは3月9日(日本時間)、スペシャルイベントを開催した。iPhone SE(第3世代)、iPad Airは、事前にネットで噂が出ていたので、想定通りの「答え合わせ」といった感じであった。
しかし、一方で、予想外で驚かされたのが「M1 Ultra」と「Mac Studio」、「Studio Display」の発表であった。Mac関連は「MacBook Pro 13インチが発表になるのでは」「M2が搭載されるのでは」という噂があった。確かに開催直前になってMac Studioの存在を報じるSNSアカウントなどもあったが、まさか新たな製品ラインナップが登場してくるとは思わなかった。
特に今回、自社で開発しているM1ファミリー戦略の「したたかさ」が明らかになり、脱帽させられた。筆者が最もびっくりさせられたのが、M1 UltraはM1 Maxを2つ、くっつけて1つのプロセッサーのように振る舞うという点だ。
実は前回の発表時には隠されていたが、M1 Maxはあらかじめ2つ、つなげられるように設計されていたのだ。これまでも、マザーボードを介して、2つのチップをつなぐアプローチというのは存在した。しかし、この場合、遅延の増大、帯域幅の減少、電力消費量の大幅な増加などのマイナス要素も強くなる。またデベロッパーは、このアーキテクチャーのためにコードの変更も余儀なくされる。
そこでアップルは2つのM1 Maxをつなげられる「UltraFusion」という仕組みをあらかじめ用意していたのだ。これにより、高速にデータのやりとりが可能となる。しかも、M1 Maxではあらかじめ自分の持つ能力以上に、2つのM1 Maxをコントロールできるリソースを確保していたのだ。
これまでM1ファミリーは、MacBook AirやiPad Proなど一般ユーザーが使うようなデバイス向けのM1、プロが使うようなMacBook Pro向けのM1 ProとM1 Maxといったようにラインナップを増やしてきた。
いずれもチップごとにアーキテクチャーを拡大するという手法で乗り切ってきた。しかし、M1 Maxまで大きくなると、これ以上、大きなダイをつくるには物理的な制約にぶつかってしまう。そこで、アップルは「2つの1つにつなげて、1つのように振る舞う」というアプローチを実現して、M1 Ultraをつくってしまったのだった。
この手法であれば、M1 Maxを大量につくるというやり方で、MacBook Pro向けのSoCだけでなく、Mac Studio向けのSoCのベースもつくれてしまう。半導体は大量生産すればするほど、コストを下げることができる。
アップルは、最初にiPhone 13向けにつくったA15 Bionicを今回、iPhone SE(第3世代)にまで拡大した。また、M1もMacBook Air、MacBook Pro、Mac MiniからiMac、iPad Pro、そして今回はiPad Airにまで広げている。
自社内での搭載製品を増やすことでコストの削減につなげるのはアップルが得意とするやり方であり、まさにM1 UltraはM1 Maxを2つ利用するというコスト削減をしながら、最高峰のデスクトップ向けSoCをつくるという、異なる目標を一気に実現してしまったのだ。