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クアルコムとの和解に見え隠れするアップルの苦悩

とどめを刺した「5G ONLY ON Android」

 こうした特許紛争は提訴した各国の裁判所で審理が進められ、判決が出されたり、和解が成立したりするものだが、両社の訴訟合戦は両社のビジネスにも影響が見られた。そのキープレーヤーとなったのが米インテルだ。

 インテルと言えば、パソコンのCPUで圧倒的なシェアを持つが、この十数年で、デジタル製品の主流はパソコンからスマートフォンへ移行が進んでいる。インテルはパソコンのCPUだけを製造しているわけではなく、さまざまな製品を展開しているが、将来を見据え、通信向けチップの強化を図るべく、2011年に独インフィニオン・テクノロジーズのワイヤレス事業部を買収し、モバイル通信向けのモデムチップの開発を進めてきた。ちなみに、このインフィニオン製モデムチップは古くにiPhoneと関わりがあり、2009年に国内向けに初登場したiPhone 3Gのときにもモデムチップとして、採用された実績を持つ。

 インテルはインフィニオンのリソースを活かし、4G LTEプラットフォーム向けの製品を市場に提供してきた。2018年9月に発表されたiPhone XS/XS Max/XRには、それまでのクアルコム製ではなく、インテル製のモデムチップが搭載されることになった。これは言うまでもなく、アップルがクアルコムと係争中だったからだが、インテルはIoTやコネクテッドカーなど、5G時代へ向けた技術開発を進めており、アップルとしては、5G時代を見据えて、ひと足早くインテル製モデムを採用することになった。

クアルコムとの和解に見え隠れするアップルの苦悩

 ところが、インテルの5Gモデムの開発は順調に進まず、サンプル出荷が2019年末にずれ込むとアナウンスされるなど、iPhoneの5G対応が危ぶまれる状況になってしまった。

X50

 一方のクアルコムは、すでに5G対応モデム「X50」を出荷し、2G/3G/4Gをサポートする既存のSnapdragonシリーズ(現行のSnapdragon 845など)と組み合わせることで、既存のネットワークにも対応した5G対応スマートフォンを開発できる環境をいち早く整えていた。今年2月に発表した「X55」では、5Gモデムに2G/3G/4Gモデムを統合しており、モデムを持たないチップセットと組み合わせることで、幅広いレンジの5G対応スマートフォンを開発できるようにしている。すでに、サンプル出荷も開始され、2019年末には搭載製品が登場すると言われている。

MWC 2019で行われたセレモニー

 そして、こうした動きを踏まえ、トドメを刺すような形となったのが今年のMWC19 Barcelonaだ。ここ数年、毎年2月にスペイン・バルセロナで開催されるMWCでは、5Gへ向けた各社の展示が活発化していたが、5Gの課題を解決する多彩なソリューションを展示するクアルコムブースの斜め向かいには、インテルがブースを構えており、そこを狙ったクアルコムのちょっと刺激的なコピーが何度も話題になっていた。極めつきが今年の展示で、クアルコムブースの説明員が着るTシャツには「5G ONLY ON Android(5GはAndroidだけ)」と書かれていた。

MWC2019でのクアルコムブース

 これが何を表わしているのかは、MWC19 Barcelonaの記事を読み返していただきたいが、今年のMWC19 Barcelonaでは会場内に5Gのネットワークが設置され、クアルコムブースでは同社製5Gモデムを搭載したソニー、サムスン、LGエレクトロニクス、ZTE、OPPO、シャオミ、OnePlusという7社の5G対応スマートフォン(一部は試作機)が展示され、ブース内のアンテナからの5Gの電波を受けて動作していた。つまり、5Gが注目されているMWC19 Barcelonaにおいて、クアルコム製5Gモデムを搭載したAndroidスマートフォンは、すでに5Gネットワークと接続できているのに対し、インテル製5G対応モデムは開発が遅れ、採用を検討していたiPhoneでは当面、5Gが使えないことが明白になってしまったわけだ。こうしたクアルコムの動きには当然のことながら、Googleも同調し、同様のキャッチコピーを掲示しながら、Androidプラットフォームのアドバンテージをアピールしていた。

 こうなってくると、5G対応製品が続々と登場すると予想される2020年以降、Androidスマートフォンは次々と5G対応を謳うのに対し、iPhoneだけが5Gに対応できず、取り残されるのではないかという指摘も聞かれるようになってしまった。こうした状況に対し、今月初めにはクアルコム社長のクリスティアーノ・アモン氏が「アップルに5Gモデムを供給する用意がある」と発言したことが伝えられ、数日前にはファーウェイ創業者でCEOのレン・ツェンフェイ氏がアップルへ5Gモデムを供給すること(販売すること)について、「オープンである」と答えたと伝えられるなど、インテル製5Gモデムを搭載する予定にしていたアップルに対し、業界各社が手を差し伸べる動きも見られた。

 そして、4月16日、ついにクアルコムとアップルは全面的に和解することを発表し、この先、6年間のチップの供給を受ける契約を結んだことが明らかになった。和解内容は詳しく説明されていないが、これまでの置かれている環境を鑑みると、アップルが特許使用料を支払う形で、話がまとまったと推察される。

 また、この発表と前後するタイミングで、インテルは5Gモデムの開発終了を発表した。アップルが採用をやめたことで、インテルが5Gモデムの開発を断念したのか、あるいはインテルが5Gモデムの開発を断念したことで、アップルがクアルコムと和解したのかはわからないが、いずれにせよ、インテルもアップルも方針を転換せざるを得ない状況に追い込まれたことは確かだ。